ダイレクト・マーケティング

 マーケティングの出発点は、つくったモノを売り込むのではなく、顧客が欲しいと思っているモノを提供する顧客目線である。その意味でダイレクト・マーケティングは本来のマーケティング原理に則している。商品を売る相手を、不特定多数の消費者とはみなさずに、1人の顧客としてその関係性の構築に主眼を置く。つまりどんな顧客でも老舗企業のお得意様のように扱い、顧客の購入履歴や好みまでしっかりと記憶する。そして顧客一人ひとりが喜ぶ商品やサービスを提案するのである。それは顧客と直に対峙するワンツーワン・マーケティング、あるいは関係性のマーケティングであり、顧客管理の徹底ぶりからはデータベース・マーケティングとも称される。ただし、現代企業が収集する情報は購買履歴だけではない。客の行動履歴や年齢や所属コミュニティまでも含めた総合的な個人情報である。ウインドーショッピングをしただけで、目にした商品情報が登録され、年齢や取引銀行まで知られてしまうようなものである。実際には、ネット検索の履歴などが利用される。そこからその人物の嗜好を類推して、関心がありそうな商品をその人物だけに宣伝する。むろんこれはプライバシーの問題に直結する。学校、病院、福祉施設などの公共非営利組織は、利用者と直に接して、一人ひとりの成績や病歴や家族構成にまで精通する。しかし、企業のダイレクト・マーケティングとは根本的に個人情報の利用目的が異なり、情報の管理制度も異なる。個人情報の扱いについては、公共・非営利組織に課せられている制度を再評価し、市場の仕組みにどのように反映させるべきかを再考する必要がある。
(川野祐二)