第三者委員会

 企業等が不祥事事件を起こしたとき、その当事者自らが設置するのが「第三者委員会」である。不祥事を起こすのは企業とはかぎらないため、委員会を設置する団体には、行政組織もあれば、非営利組織もある。学校のいじめや大学の不正入試、スポーツ団体のハラスメントや病院・福祉施設の事故に至るまで、あらゆる場面で官民を問わずに広く設置されるようになった。コンプライアンスやガバナンスの普及時期とも重なっていたことから、海外から輸入された仕組みと思われがちだが、日本発祥とされる。第三者委員会は依頼された当該団体の事件調査を行い、調査報告書を作成する。調査報告書の完成によって、当該団体は不祥事の経緯を明らかにするとともに、自浄作用を働かせていることを世に示し、事件についての決着を図る。原因究明を記した報告書の公表は、再発防止に向けた取り組みを開始したことも意味する。第三者委員会は常設機関ではない。不祥事が起こるたびに臨時に設置される。第三者調査委員会、独立委員会、独立調査委員会などと呼称されることもある。第三者委員会や独立委員会という言葉の響きには、不祥事を起こした団体とは縁もゆかりもない第三者によって、「客観的」な調査をするかのような印象を与える。しかし、委員会を設置するのは不祥事を起こした当該団体で、委員の選任も同団体が行うため、第三者委員といっても、客観性が担保されていないと指摘されることがある。通常、第三者委員会は少数の委員で構成される。委員会独自の調査予算はなく、専任の調査員はいない。刑事事件のように強制調査は行えず、事実関係や事件の背景を独力で調べることは不可能である。第三者委員会は、不祥事を起こした団体と彼らの提供する情報に頼らざるをえず、短期間のうちに調査を終えなければならない。本来、第三者委員会は、依頼をしてきた当該団体の役員のためではなく、告発者と被害者を含めたステークホルダーおよび社会正義のために調査を行う。株主不在の非営利法人では、よりステークホルダーを意識しなければならない。不祥事を起こした団体が、コンプライアンス経営に向けた真の再生を果たそうとするならば、公正な調査を約する第三者委員を任命する必要がある。適格な委員の任命がなければ、第三者委員会は機能不全に陥るリスクを含む。
(川野祐二)