ソーシャル・キャピタル

 社会関係資本と訳されることが多く、物的資本(physical capital)や人的資本(humancapital)などとならぶ新しい概念であり、人々の社会的ネットワーク(繋がり、絆)、およびそこから生じる社会的信頼(他者への信頼感)や互酬性の規範(お互いさま)を要素とする概念として理解されている。ソーシャル・キャピタルの概念が日本で特に注目されるようになったのは、Putnam, R.D.(パットナム)の『哲学する民主主義』や『孤独なボウリング』によってである。パットナムによれば「調整された諸活動を活発にすることによって社会の効率性を改善できる、信頼、規範、ネットワークといった社会組織の特徴」(パットナム[2001]、206-207頁)、「社会関係資本が指し示しているのは個人間のつながり、すなわち社会的ネットワーク、およびそこから生じる互酬性と信頼の規範である」(パットナム[2006]、14頁)と定義している。また、ソーシャル・キャピタルはつぎのように分類される。第1に、水平的ネットワークとしての、①結束型(bonding)と②橋渡し型(bridging)である。①結束型は、同質な者同士を結びつける社会関係資本とされる。例としては、自治会や町内会等の地縁団体、学校のサークルや同窓会などがあげられる。また特徴としては、繋がりが強く同質性を有するため安定性がある一方、発展性に乏しく排他性を引き起こす危険性があると指摘されている。②橋渡し型は、異質な者同士を結びつける社会関係資本とされる。例としては、NPOや市民活動団体等のネットワークがあげられる。また特徴としては、繋がりが緩やかで多様性を有するため発展性が期待される一方、安定性に乏しく継続性が不安視されている。第2に、垂直的ネットワークとしての、③連結型(linking)である。連結型は、権力や社会的地位など社会的階層が異なる者同士を結びつける社会関係資本とされる。例としては、市民活動団体等が公的機関から活動資金を獲得する関係やそれを支援する中間支援組織等があげられる。また特徴としては、異なる社会的階層を繋ぐことから行政と地域の多様な主体による協働など地域ガバナンスにおける有用性が期待される一方、依存意識を誘発・助長する可能性も考えられる。  以上のように、ソーシャル・キャピタルは分類されるが、実態的には必ずしも明確に分類、整理できるものではない。たとえば、高齢の男性だけで役員が構成される自治会や町内会は一般的には結束型に分類される。しかし、その役員が、年齢は若者から高齢者、職業は学生やサラリーマンに自営業者、性別は男性だけでなく女性やLGBTなど、さまざまな地域の人々で役員構成される自治会や町内会へと変容すれば、橋渡し型へと変容することになる。また自治会が活動資金の助成を公的機関から受ける場合は連結型の性格も帯びることになる。このように、ソーシャル・キャピタルは、人や団体等のネットワークを①結束型、②橋渡し型、③連結型と截然と分類、整理できるものではなく、動態的に変容し重複もする概念である。
(黒木誉之)