贈与

 当事者の一方が、ある財産を無償で相手方に与える意見を表示し、相手方が受諾することによって、その効力が生じる片務、無償の契約である(民法549)。財産としては、物権のほかに債権や知的財産権や債務免除も含まれる。労務の提供が贈与に入るか否かについては、説が分かれている。贈与者は財産権を移転する義務が生じ、債権の場合は通知義務(同法467)、不動産の場合には登記移転義務(同法177)がある。不動産の受贈者は、その不動産の登記をしなければ、所有権の継承を第三者に対抗できない(同法177)。財産を引き渡すまでは贈与者に善管注意義務が課される(同法400)。書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、このかぎりではない(同法550)。書面によらない贈与契約は、当事者同士に慎重性が欠けている場合も考えられるので、すでに贈与が終わった部分を除いて取り消すことができる。書面による贈与契約は特別の事情がある場合を除いて、取り消すことができない。寄附も贈与と同様に財産を無償で相手に渡すことであり、相手が個人であれば贈与、国や法人であれば寄附ということになる。民法に寄附という言葉は見当たらないが、法的には贈与の一部と解せよう。なお、特殊な贈与として負担付贈与(同法551Ⅱ、553)、定期贈与(同法552)、死因贈与(同法553)などがあり、それらは他の制度の性質をも併せもっており、それぞれ別個につぎのように扱われている。まず負担付贈与とは、文字どおり負担の付いた贈与であって、たとえば5億円のマンションを贈与する代わりに、そのマンションを取得する際に借り入れたローン残金3億円を負担させるような場合である。贈与者はその負担の限度において、受贈者と同じ担保責任を負うことになる(同法551Ⅱ)。また片務契約でなく双務契約の規定を準用する(同法553)。ここでの双務契約とは、贈与者、受贈者双方が互いに対価的意義を有する債務を負担する契約を意味する。ゆえに、その履行においては、同時履行の抗弁権(同法533)が認められ、また危険負担の問題が生じる。つぎに定期贈与とは、毎年または毎月のように定期的に一定の金銭または財産を贈与するものである。贈与契約は一代かぎりの契約が普通で、贈与者または受贈者の死亡でその効力を失う。定期贈与は贈与者と受贈者の特別の関係で行われるものであることから、当事者のいずれかの死亡によってその効力が失われ、相続によって継続されるものではないと解されている。最後に死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力が生じる生前の贈与をいう。死因贈与は当事者間の事前の契約であるという点で遺贈と異なっているが、実質的には類似点が多いことから、遺贈に関する規定が準用される(同法554)。
(成道秀雄)