相続税・贈与税の特例

 相続税・贈与税の納税義務者は相続または贈与等により財産を取得した個人であり、法人が保有する財産は基本的に個人の相続財産を構成しない(株式会社であれば法人が保有する財産は株式等の評価額に反映される形で個人に相続税が課税される。)。また、法人へ贈与等により財産移転が行われた場合には、法人税法の規定が適用されるため(法人の益金となる。)、法人は原則として相続税・贈与税が課税されることはない。しかし、法人を介した相続税回避が想定されるため、課税の公平の見地から、相続税法上の特例としてその防止措置が規定されている。当該措置は一般社団法人および財団法人(一般社団法人等)の特徴に由来する。公益法人制度改革により、一般社団法人等は事業の公益性の有無や種類に制限なく、設立の登記のみにより簡便に法人格の取得が可能となった(準則主義)。さらに、①株式等のような出資持分の概念がないことに加え、②主務官庁の監督がなく、③剰余金等の分配はできないが解散時に社員総会の決議により社員や財産拠出者等が残余財産を取得可能であるといった特徴がある。この特徴を濫用し、個人が所有する各種財産をその同族関係者が実質的に管理・支配する一般社団法人等に形式的に移転し、理事等の交代による法人の管理・支配の維持を通じて、相続税または贈与税の負担を永続的に負うことなく次世代に実質的な財産の承継を行うという相続税回避策が可能であった。そのため、公益法人制度改革に対応する税制上の措置の1つとして、広く持分の定めのない法人を対象とした贈与等については、相続税法66Ⅳと65の二重の措置が用意されている。すなわち、持分の定めのない法人に対して財産の贈与等を行った場合、一定の条件に該当すれば贈与税等を課税する規定である。前者の規定がカバーしきれないケースを想定する形で後者の規定が設けられており、重複適用を避けるため前者が優先適用される。なお、前者は一般社団法人等を個人(納税義務者)とみなして法人が取得した財産を対象として贈与税等を課税するものであり、後者は受益者である個人(納税義務者)が享受した特別な利益を対象とする点で異なる。また、有償譲渡により一般社団法人等に財産を移転した場合、移転時に所得税等が課税されたとしても、その後の理事等の交代により課税されることなく実質的な財産承継が可能であったため、法人への財産移転時の課税のみでは防止措置として十分といえない状況にあった。そのため平成30(2018)年度税制改正では、一定の要件を満たす一般社団法人等(特定一般社団法人等)の理事の死亡に際し、支配権の承継を通じた財産の移転があったものとして、その時点における当該特定一般社団法人等の純資産額をベースとして計算したみなし遺贈財産を課税対象とし、当該特定一般社団法人等を個人とみなして相続税が課税されることとなった(相続税法66の2)。
(武田紀仁)