戦略策定

 組織と環境の適応を方向づけるプロセスである。非営利組織においては、理事会と経営者が共同して戦略策定を行うことになっている。しかし多くの場合、経営者が、①戦略策定の努力を先導し、②戦略策定の諸資源を準備し、③理事会が考慮すべき問題を限定するなど、重要な役割を果たしている。非営利組織が戦略を策定する場合、営利企業の戦略策定プロセスを適用することは、従来不適切と考えられてきた。しかし近年では、営利企業の戦略策定プロセスは、適切な修正を加えれば非営利組織に十分適用可能であり有効であるとされ、多くの事例が報告されるようになった。このような戦略策定プロセスの代表的なものとして、Hofer, C.W.and Schendel, D.E.(ホーファーとシェンデル)のモデルがある。彼らのモデルは、もっぱら営利企業を対象にしており、つぎの7つのステップからなっている。①組織の現在の戦略を評価する。②組織の直面する機会と脅威を発見するために、環境を分析する。③つぎの④戦略ギャップを縮小するための利用可能なスキルと資源を評価する。④ギャップを分析する。どの程度の戦略変更が必要なのかを決めるために、環境における機会と脅威に照らして組織の目標、戦略、資源を評価する。⑤新戦略が盛り込まれている複数の戦略代替案を識別する。⑥経営者の価値や組織の社会的責任の観点から複数の戦略代替案を評価する。⑦戦略実施の立場から1つまたは複数の戦略代替案を選択する。以上紹介したホーファーとシェンデルのモデルは、戦略策定プロセスの分析的側面に注意の大半を集中している。しかし非営利組織の戦略策定のプロセスには、社会的・政治的諸力が大きな影響を及ぼすことを認識する必要がある。たとえば、国際婦人ローマン・カソリック教会に関するBartunek, J.M.(バーツネク)の事例研究においては、外部環境要因である社会的・政治的諸力により、組織成員によって共有された解釈枠組み(現実の経験を写す図式)、特に組織の使命についての理解が急激に変化するとともに、組織は大きな組織構造の変化を経験した。この事例は、非営利組織が戦略を策定する場合には、外部環境要因である社会的・政治的諸力を洞察できる組織成員以外の政策ボランティアの参加が不可欠であることを示唆している。
(小島廣光)