非営利組織は、歴史的には相互扶助や共同生活を担う共同体のように、営利企業の発生以前から人類史とともに存在してきたともいえるのであって、あえてその「正当性」を論じる必要はなく、むしろ機能的組織である営利企業や政府は、人間にとって自然的集団形態である非営利組織の機能の一部を担う手段にしかすぎないともいえる。この意味では、非営利組織の正当性を問うこと自体が、市場原理主義や国家主導の社会主義からの視点だという議論も可能であろう。ただし、これらの非営利組織の正当性論は、たんなる説明理論ではない。むしろ第1に、非営利組織のガバナンスの仕組みや規制をどのように構想するか、たとえば株主利益によるガバナンスがサービス受益者にとって否定的効果や信頼性を低下させる効果をもつとすれば、それに代替するガバナンスをどう考えるか(Hansmann,H. B[. ハンズマン][1980]、[1996])、第2に、公益的非営利組織への税制上の取り扱いや助成やそれに伴う規制をどのように構想するか、たとえば、公益の認定の仕組みや情報公開等の規制方法をどう改革するか、第3に、非営利組織が他の組織類型と区別された戦略的優位性をどのように定めるべきか、たとえば、いわゆる「社会的企業」は営利企業形態を含む場合も多いが、それと比較して非営利組織であるからこその戦略的な強みと意義をどのように実現するか、などの実践的課題と結びついている。非営利組織の正当性を問うことは、非営利組織の社会的位置づけを問うことであり、資源分配をめぐる政治過程の一部としても理解されなければならない。
(岡本仁宏)