人的資本

 個人がもつ、知識、経験、技能、などの後天的に獲得した性質、健康や身体状態を人的資本と呼ぶ。人的資本について、個人および社会が、人に対して投資行為をすることで、個人や社会がえる総生産が増大する。マクロ経済レベルの経済成長において人的資本が果たす影響は大きい。新古典派経済学の基本的な経済成長理論であるSolow, R(. ソロー)の生産関数をもとに紹介する。ソローモデルのもっとも簡単な式は以下のとおりである。
 Y(t)=F{K(t), L(t)}
 このとき生産物をY、資本をK、労働力をLとしている。Y(t)は一国の総生産量(いわゆるGDP)で、K(t)は一国の工場や機械などの資本ストックの合計、L(t)は一国の全労働者数つまり総労働量の合計を指すことになる。以上のモデルは、資本に対して労働量(人数や時間)を投下すればするほど、総生産量が増えるという単純なモデルであるが、現実にはそうではない。技術進歩率や貯蓄率、人口増加率、そして人的資本などの所与を変数として考慮することでソローの生産関数を拡張させて理解してきた。従って、人的資本となる教育訓練や健康等の水準を投資によって高めることは、個人一人ひとりが保有する生産能力の向上に繋がり、結果的に一国の生産性を高めることになるのである。人的資本の定量的な計測方法として、教材や教育時間をかけたコストを推定する「費用ベースアプローチ」と、教育や職業訓練によってえられた所得を計算する「所得ベースアプローチ」の2つがあげられるが、おもに後者が用いられることが多い。個人間の所得格差についても、人的資本の蓄積によるものと解釈することができるのである。人的資本に対して人的資源とは、労働者が保有している職務遂行能力のことを指す。企業などミクロレベルにおいても、人材育成に投資することによって、企業の生産量を増大することができる。管理会計によって無形の資産である人的資源の管理をする手法もある。組織内で人的資本に係る支出を将来への投資として無形資産として財務諸表に反映する「人的資源会計」という考え方が一時期もち出された時期もあったが、近年では論壇にあがることはほぼない。
(菊池 遼)