人的資源管理

 組織の目標を効果的かつ効率的に達成するための経営戦略として、ヒト・モノ・カネ・情報の4つの経営資源のうち、ヒトに当たる人的資源に焦点を当て、労働者の高いコミットメントと生産性の向上を目指す一連の管理手法を指す。対象は幅広く、採用活動、雇用管理、人事管理、労使管理、業績管理、報酬管理、福利厚生制度、教育訓練・能力(キャリア)開発、リーダーシップ、モチベーション、従業員関係などで構成される。1980年代以前、経営者が労働者を管理・統制して合理化し、生産性を高めることを目的とした人事労働管理と呼ばれていたが、この概念は、ホワイトカラーをおもな対象とした人事管理(personnel administration)と、ブルーカラーをおもな対象とした労務管理(labor management)に分けられていた。工労働者は機械や原料と同じ、生産要素のうちの1つにしか過ぎないものと考えられており、いかに労働者を科学的な手法で管理するかが主眼とされていた。1980年代からは、欧米では国際競争力の低下から、人的資源の重要性に注目が集まり、労働者の責任感や共通の目標設定を扱う人的資源管理(HRM)の考えに発展した。さらに日本では近年、労働者を資源と呼ぶことへの抵抗感から、「人材マネジメント」と呼称されることもある。人的資源管理に特徴的なのは、経営戦略が意識されているため、職務構造や組織構造、組織文化にも関心を有している点である。さらに、報酬に基づいた雇用契約という関係よりも、経営者と労働者の間でのモチベーションなど心理的なマネジメント・人間関係をも含意している点である。リスク・マネジメントや多様性に配慮するダイバーシティ・マネジメントもその対象となっており、人的資源管理の扱う分野は年を追うごとに広がりをみせている。
(菊池 遼)