(堀田和宏)
商業化
金銭的利益をえるために非営利組織の関連事業・非関連事業・補助事業の製品やサービスを「商品として」一般市場において生産/販売するプロセスであり、同時にそのなかにビジネス・マネジメントの思想と技術を取り込むことである。このような商業化あるいは市場化の現象は古くからみられるが、今日はその範囲と規模の拡大と種類の多様化がすすんでいて、料金収入や副業収入以外に企業とのパートナーシップ、企業文化の非営利組織への浸透など、非営利組織の正当性を脅かす非営利組織の私企業化、あるいは私企業との混合化がみられる。このように非営利組織が商業化する要因として、ヒューマンサービスやソーシャルサービスなど非営利組織に求められるサービス需要の増大、それに伴うコストの上昇、それに対する政府の財政支援の相対的減少や民間寄付の停滞、非営利組織間や営利組織との資金獲得やサービス供給の競争の激化があげられる。この商業化は政府や寄付者への依存を減らし制約を受けない組織の自由裁量の範囲を広げて自主自律を高めると同時に、組織の有効性を高める。富を再分配するだけでなく商業収入で内部補助すると同時に、新しい「経済的」富を創出して社会的ニーズを満たすことができる。また、非関連事業活動の形態の商業化の増加は、すでにミッション関連事業の生産に利用されている諸資源があるために、ほとんど追加費用を要しないし、ミッション関連のアウトプットの生産費用を減らすという意味で効率的である。しかし、商業活動に伴う潜在的な問題は非営利組織の文化を変えるかもしれない点である。専門経営者が参加し指揮をすることなどで相当額の収入を増やすことに成功すれば、組織はその社会的目的をさらに追求できる可能性も高まるが、市場の圧力が非営利組織の価値基準をひそかに傷付け、利益の追求をそれ自体優先させるような組織内の財務上の豊かさや安定性を重視するようになる。経営者はじめ組織の体質がその社会的ミッション以上に利益を重視することで本来の社会的ミッションから組織を遠ざけることになる。そこではミッション達成努力の分散とミッション逸脱の現象が起こる。その結果は寄付の減少や優遇制度の見直しなど社会的・政治的な信用の失墜である。非営利組織の商業化には利益の出ない財・サービスを提供するというミッションを達成するための資金を調達できるが、そのためにそのミッションとは合致しない商業活動をして非営利組織の行動基準を変質させるというジレンマがある。ただ、最終的に商業活動が非営利組織の本来のミッションに奉仕する主導権を侵すことがあってはならない。非営利組織の掲げる社会的価値のあるミッションは市場のメカニズムだけではそれを有効に追求し達成することはできないからである。