受託責任

 寄付者等の組織外部者から委託された財貨・用役のような資産について、非営利組織が自らの責任をもって適切に管理運用する義務のことを指す。このような外部者から委託された資産を管理運用するために当該組織が負う委託義務のことは、スチュワードシップ(stewardship)ともいう。その語源には、中世ヨーロッパに起源をもつ貴族の財産を預かる執事・財産管理人としてのスチュワード(steward)の資格・役職(ship)があげられる。すなわち、スチュワードシップとは、委託財産管理の受託者としてのスチュワードが負う責務として、財産管理の職務遂行上、委託者の不利益となる行為は回避しなくてはならないという職業倫理上重要な概念である。これは委託を受けて財産管理を職務とする受託者の立場にある者の基本倫理を包含する概念ともいえる。受託責任を適切に遂行するためには、非営利組織の経済活動を正しく認識・測定して記録することが求められる。そのため、日頃から適正な会計記録・測定を行い、組織外部の委託者に対し適切な財産管理が行われていたかを示すために、財務情報を定期的に報告することが必要となる。非営利組織の場合、法人の種類や設立根拠規定によってそれぞれ異なる会計基準を用いることがあるが、会計の目的が財産変動を伴う経済活動に関する帳簿記録を通じた適切な財産管理という点では共通している。組織外部の利害関係者へ財務報告をすることを通じて、組織の透明性を高めてガバナンス強化を図ることは、いかなる種類の組織においても欠かせない。そもそも非営利組織は公益や共益といった社会的使命をもった民間組織といえるが、事業活動継続のためには、寄付者やボランティアといった組織外部者からの支援が欠かせない。非営利組織のマネジメントが適正に行われてこそ、はじめて事業のパフォーマンスや評価を高めることができ、ひいては社会の支持をえることができるからである。財務報告は、非営利組織の資金提供者である寄付者や政府等に対する説明責任としてのアカウンタビリティを高めることにも資する。また、これは、非営利組織の事業活動に対する資金獲得手段としてのファンドレイジングとの関係にも直結する。万が一、当該組織が不適切な会計処理を行って横領などの不祥事を発生させることがあれば、資金提供者に対する受託責任違反が問われかねず、支援者の信頼を失うことは将来のファンドレイジングに対しても悪影響が及ぶため、職業倫理上回避しなければならない責務といえる。従って、受託責任とは、ファンドレイジングを通じて外部の支援者から任された財産に対し責任をもって行う非営利組織が、その与えられた裁量権の範囲内で実行する責任、すなわち業務遂行責任であり、そこには受託者としての結果報告責任も伴う。
(國見真理子)