住民自治

 戦後、日本の非軍事化と民主化を基本としたアメリカの占領政策のもと、憲法改正について昭和21(1946)年2月13日に示された連合国軍総司令部(GHQ)民政局草案に、3箇条から成る「第8章ローカル・ガバメント」(外務省訳「地方政治」)が置かれた。日本政府は同案を基礎として3月2日案を作成し、民政局との折衝のなかで表題の邦訳を「地方自治」に改め、それに伴い英語も「ローカル・セルフ・ガバメント」に改めるとともに、章の頭初に総則的な条文として、「地方公共団体の組織および運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」を追加した(現行憲法第92条)。同条にいう「地方自治の本旨」という言葉について、折衝に当たった佐藤達夫は、「一般にいわれている団体自治と住民自治と、この2つを根幹としていることはおのずから明らかである。」とする。「地方自治の本旨」は、地方公共団体の運営は原則として住民自身の責任において自らが行うという「住民自治の原則」と、国から独立した地方公共団体に住民に身近な行政を自主的に処理させるという「団体自治の原則」をともに実現するという地方自治の原則をいうものとして、政府により説明されてきた(第176国会における答弁書・平成22[2010]年12月14日等)。住民自治の原則は、現行憲法第93条で地方公共団体の議会の設置および執行機関の直接公選制による団体の機関の民主化を定めることにより具体化されている。
 地方自治の分権的側面を団体自治が、民主主義的側面を住民自治が理念として示している。今日では住民は、公共的意思決定主体として地方自治体の政策決定過程に政治参加するとともに、住民(市民)協働(PPP[PublicPrivate Partnership]の一種)を通じて、公共サービスの提供主体としても地方自治体の政策執行過程に広く参加している(公務住民)。NPOは、住民が地方自治体の運営に主体的に参加・参画する際、その公共的関心や公共的意思の表明、意見交換、経験交流等を喚起し、自発的な参集を促し、参加行動に導いたり、それ自体が参加推進主体、乗りもの(ヴィークル)としても機能する。今日、住民(市民)概念は拡張傾向にあり、当該自治体の区域に住所を有する者にかぎらず、通勤・通学者や域外からの活動来訪者など多様な「関係人口」が住民に含めて考えられている。NPOは、こうした必ずしも地縁に限定されない住民の参加組織としても、「住民自治」に積極的な役割を果たしている。
(初谷 勇)