宗教法人

 宗教団体は、歴史的にも、国際的にも、組織や社会貢献の規模のみならず、国家や営利団体との関係における市民社会セクターの自立性の根拠地という点でも、枢要な非営利団体である。日本では、信教・結社の自由に基づき、第1に、任意団体を自由に設立できるし、第2に、目的の定めのない一般法人法によって法人格取得も可能である。そして、第3に、宗教法人法による宗教法人が設立できる。民法制定時には第34条において、「祭祀、宗教」も「慈善、学術、技芸其の他公益」と並べて許可主義による主務官庁の許可による法人格取得の道が定められた。しかし、民法施行法28(明治31年法律第11号)は、この規定を「当分ノ内神社、寺院、祠宇及ヒ仏堂ニハ」適用しないことを定めた。その後、昭和14(1939)年には宗教団体法(昭和14年法律第77号)によって宗教に関する法人格についての統一的法令ができたが、この宗教団体法は国家総動員体制のもとでの信教の自由に対する制限として、昭和20(1945)年にはポツダム政令によって廃止になり、宗教法人令(昭和20年勅令第719号)が出され宗教法人の乱立をみることとなる。この状況に対して、宗教法人法が制定され、認証に基づく宗教法人が設立されるようになった。この歴史的経緯は、信教の自由と法人格付与を含む国家統制との接点として宗教法人制度が形成されてきたことを示す。
 現行の宗教法人法1には、その目的が「業務及び事業を運営することに資するため、宗教団体に法律上の能力を与えること」とされ、同法1Ⅱでは信教の自由の尊重が掲げられ、法の解釈規定としても「信仰、規律、慣習等宗教上の事項」に関する干渉を排除する(同法85)。同法は、宗教団体を「宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成することを主たる目的」(同法2)とし、「礼拝の施設を備える神社、寺院、教会、修道院その他これらに類する団体」(同法2①)、「前号に掲げる団体を包括する教派、宗派、教団、教会、修道会、司教区その他これらに類する団体」(同法2②)と定義する。この団体の申請に基づき、都道府県知事あるいは文部科学大臣に認証されることによって法人が設立される。同法では、統治機関として、3人の責任役員と法人規則に定めがないかぎりその互選による代表役員が置かれる。宗教上の権威者(「宗教上の役職員」同法85)がこれら役員を兼ねることが多いが、法律上はこれら役員の権限は、「宗教上の機能」と切り離された事務権限である(同法18Ⅵ)。また、同法が定める重要な行為は、信者および利害関係人に対して公告しなければならないことである。宗教行政においては、文部科学大臣のもとに宗教法人審議会が設置され、不認証や認証取消し、報告徴収・質問、審査請求・異議申立てに対する裁決・決定に関する行政の権限行使における諮問機関となっている(同法第8章)。宗教法人は、法人所得課税では収益事業所得のみの収益事業課税に加えて軽減税率が適用されている。収益事業所得も一定範囲で「みなし寄附金」として非課税となる。利子・配当も非課税である。資産課税についても、境内地、境内建物はもっぱら宗教活動用であれば、非課税となる。宗教法人は他法人に比べ土地所有割合が高く、この点でのメリットは大きい。贈与税の要件に合致した場合の非課税措置はあるが、寄附税制上の優遇は、宗教法人には与えられていない。税制上の取り扱いは、一般の公益法人の場合、財務等の公開性や監督を伴うが、オウム真理教事件を契機になされた平成7(1995)年改正により強化されたとはいえ、宗教法人のこの水準は世俗的公益法人と比べれば高いとはいえない。これには信教の自由に基づく側面、既得権益としての側面の両面がある。世俗国家と宗教団体とは、歴史的に熾烈な闘争を経てきた。宗教法人制度は、日本におけるこの最前線の制度である。
(岡本仁宏)