自由開業医制

 医師免許取得後の初期臨床研修を修了した医師は、医療法に規定されている基準を満たしているかぎり、原則として都道府県知事への届出によりどこでも自由に無床診療所を開業することができる。また、麻酔科を除き、標榜する診療科を自由に決定して自身の裁量で診療を行うことができる自由標榜制のほか、設備の更新や高額医療機器を導入する自由も認められている。これらの仕組みを自由開業医制といい、医療供給体制の形成に果たしてきた役割の大きさから、国民皆保険制度、フリーアクセスとともに、日本の医療制度の特徴としてあげられることが多い。現在、届出のみで開設できるのは無床診療所であるが、昭和60(1985)年の医療法改正で導入された医療計画によって病床過剰地域での病院の新規開設、増床が規制される以前は、有床診療所や病院の開設も自由開業の対象であった。自由開業医制の原型は江戸時代に見受けられ、明治期以降も継続して採用されたことにより、現在の医療供給体制の形成に繋がっている。公的資金が西洋医学の医師の養成や軍事関連の医療に集中していた明治政府の医療政策のもとにあって、一般への医療供給における民間資金の活用や、量的拡大をすすめるにあたっての自由開業医制の寄与は大きい。開業をはじめ、患者のニーズや周辺医療機関の動向に合わせて柔軟に診療科の改変や追加資本投下を決定できることが、民間病院の発展を促し、医療供給体制の量的整備に繋がってきた。一方で、医療機関の経営を医師の裁量に任せてきたことが、医療機関数や病床数の地域格差に繋がってきたことも指摘されている。なお、現在専門医制度の見直し、新制度の普及がすすんでいることから、診療科の自由標榜については見直される可能性が高まっている。
(山下智佳)