社会保障

 一生涯には、自分や家族の病気やけが、失業、要介護、高齢、死亡など、さまざまなリスクがある。社会保障制度は、このような個人の力だけでは備えることに限界のある生活上のリスクに対して、社会全体で助け合い、支えようとする仕組みである。社会保障制度は人生のリスクから私たちを守るセーフティネット(安全網)であるといえる。社会保障の機能としては、主として、①生活安定・向上機能、②所得再分配機能、③経済安定機能の3つがあげられる。①生活安定・向上機能は、人生のリスクに対応し、国民生活の安定を実現するものである。②所得再分配機能は、社会全体で、低所得者の生活を支えるものである。③経済安定機能は、経済変動の国民生活への影響を緩和し、経済成長を支える機能である。社会保障の概念は国によって定義が異なる。欧米では社会保障を所得保障の意味に用いることが多く、日本やILOでは、所得保障以外に医療サービスや社会福祉も含める。各国の社会保障は、1601年イギリスにおけるエリザベス救貧法の制定を機に徐々に整備されていくことになる。エリザベス救貧法は貧民救済のため(救貧対策)の制度であるため、「公的扶助」の起源とされている。一方、ドイツのビスマルクは1883年の疾病保険を皮切りに災害保険、養老・廃疾保険などを相次いで制定し、安定した生活が営めるため(防貧対策)の制度としての「社会保険」へと発展させた。これが現在、各国の社会保障制度の中核となる「公的扶助」、「社会保険」の源流となっている。アメリカのルーズベルト大統領は、1929年に起きた大恐慌の失業対策として行ったニューディール政策の後半、1935年世界ではじめて社会保障法(social act)(社会保険と公的扶助で構成されていた)を制定した。1942年にイギリスでベヴァリッジによる「社会保険および関連サービス」が発表された。これは、ベヴァリッジ報告と呼ばれ、社会保険中心かつ国民扶助と任意保険によって補完される新たな社会保障が体系化されており、第2次世界大戦後の各国の代表的な社会保障モデルとなった。これらに遅れて、日本の本格的な社会保障政策は第2次世界大戦以降になる。日本国憲法第25条(生存権を営む権利)の理念を具体化するものとして、社会保障審議会「50年勧告」は、「社会保障制度とは、一生涯のさまざまなリスクに対して、①社会保険により経済保障し、②公的扶助により最低限度の生活を保障するとともに、③公衆衛生、④社会福祉によって、文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすること」と定義し、「社会保険」を中心として、「社会福祉」や「公的扶助」、「公衆衛生」がそれを補足する形で日本の社会保障が発展してきた。日本の社会保障の特徴は、昭和36(1961)年に実現された「国民皆保険・皆年金」である。「国民皆保険・皆年金」は、すべての国民が公的医療保険や年金による保障を受けられるようにする制度である。「国民皆保険・皆年金」を守っていくことが日本の社会保障制度を堅持していく重要な課題である。
(吉田初恵)