社会保険

 人生の途上で遭遇するかもしれない傷病、失業、労働災害、要介護などによる所得の低下や医療・介護サービスが必要になることなどのさまざまな危険(これらを「保険事故」、「リスク」という。)に備えて、人々が集まって集団(保険集団)をつくり、あらかじめお金(保険料)を出し合い、それらの保険事故にあった人に必要なお金やサービスを給付する仕組みである。公的な社会保険制度では、法律等によって国民に加入が義務づけられるとともに、給付と負担の内容が決められる。 現在、日本の社会保険には、①医療保険、②年金保険、③雇用保険、④労働者災害補償保険、⑤介護保険の5つの社会保険がある。社会保険の財源は保険料が中心である。保険料は、被用者保険(雇用されている人の保険)では被保険者(被用者)本人のみならず、被保険者の職場の事業主も負担する(原則、労使折半)のが原則となっている。また、社会保険制度の財源には、保険料以外にも国庫負担金等がある。医療保険や介護保険の場合は、給付を受ける本人が、かかった費用の一部を支払う「一部負担金(利用者負担)」もある。なお、応能負担の見地から、低所得者を対象に保険料を軽減・免除するために国や地方公共団体も費用の一部を負担している。社会保険は、保険料の拠出と保険給付が対価的な関係にあり、保険料負担の見返りに給付を受けることから給付の権利性が強いとはいえ、会計的に保険料負担(収入)と給付水準(支出)とが連動していることから、一般財源としての租税よりも、給付と負担の関係について、国民の理解がえられやすい側面がある。社会保険制度は、保険料を支払った人々が、給付を受けられるという自立・自助の精神を生かしつつ、強制加入のもとで所得水準を勘案して負担しやすい保険料水準を工夫することで、社会連帯や共助の側面を併せもっている仕組みである。社会保険の導入は、保険によるリスクの分散という考えに立つことで、社会保障の対象を一定の困窮者から、国民一般に拡大することを可能としたものといえる。このように、自立・自助という近現代の社会の基本原則の精神を生かしながら、社会連帯の理念を基盤にしてともに支え合う仕組みが社会保険であり、自立と連帯という理念に、より即した仕組みであるといえる。一方、社会保険のデメリットとしては、社会保険の加入対象でない者や保険料を納付しない者は、給付による保障を受けられないことが指摘される。特に、事業主経由ではなく、直接本人から保険料を徴収する国民年金制度(第1号被保険者)や国民健康保険制度においては、保険料の未納や徴収漏れといった制度運用上避けられない問題があり、非正規雇用の労働者を対象とした厚生年金保険等の適用拡大や保険料納付率向上のための効果的な未納対策も併せて重要な課題となっている。
(吉田初恵)