社会的入院

 医学的には入院の必要がなく、在宅での療養が可能であるにもかかわらず、ケアの担い手がいないなど家庭の事情や引き取り拒否により、病院で生活をしている状態のことである。社会的入院が問題化した背景としては、1970年代から始まる高齢化により、高齢者数が増加したことに加え、医学の進歩によって救命率が上昇したこともあり、患者の絶対数が増加したことがある。その他の要因としては、政策的な側面では福祉施策の遅れがある。昭和38(1963)年の老人福祉法制定により特別養護老人ホームが設けられたが、介護保険制度創設前までは、病床数の増加幅に対する特別養護老人ホームの定員数の増加幅が大幅に少ない状況が続いていた反面、在宅福祉サービスの水準は低く、家族が在宅介護を行うことの負担が大きかったことから、受け皿として病院が選択されてしまったことがある。また、利用者本人や家族の負担面がある。医療機関への入院は昭和48(1973)年から実施された老人医療費無償化により費用負担はなかったが、当時の特別養護老人ホームにおいては、所得に応じた費用負担があった。利用時の手続き面においても、医療機関への入院では、契約行為のみであるが、介護保険制度前の特別養護老人ホームは措置制度による運営であったため、市町村への申請や認定等の手続きが必要であった。昭和58(1983)年の老人保健法制定により一部負担が導入された後も同様であり、費用負担が少ない病院が選択された。その後、介護保険制度の創設、医療保険の度重なる見直しが行われているが、福祉で担うべき領域を医療が行っている部分は存在し続けており、医療法の改正にて一般病床のうち、長期療養を要する病床について、療養病床として定義づけされたが、医療保険適用の医療療養病床と、介護保険適用の介護療養病床が併存することとなったほか、介護療養病床については、介護医療院への転換が促されているが、福祉と医療の区分については整理しきれていない。従って、現状も社会的入院の概念は持続されており、総額としての医療費の増加に繋がる要因の1つとなっているほか、社会的入院による入院患者の存在により、病床の適正利用が困難になる事象が発生するなどの問題が残されている。
(上村知宏)