社会的責任投資

 企業の成長性や安全性といった財務的な側面だけではなく、社会的責任(CSR:CorporateSocial Responsibility)や、社会面・環境面での持続性といった非財務的な観点も考慮しながら投資先を決める投資手法である。このSRIは、1920年代のアメリカで始まったといわれており、キリスト教の倫理観に基づいて、宗教団体がアルコールやタバコ、ギャンブル、兵器などに関連する企業を投資先から除外するネガティブ・スクリーニングの手法がとられていた。また、1970年代前半には、公民権運動やベトナム反戦運動の高まりにより、社会運動家や大学の機関等が主体となって、社会的責任を果たしていない企業を投資先から除外する目的で社会的責任投資が活用された。それに対して、近年では法令遵守、消費者保護、公正な雇用、女性の活躍、地域社会への貢献など、ESG:Environment, Social,Governance(環境・社会・ガバナンス)の観点から企業を評価し、望ましい投資先を選定するポジティブ・スクリーニングの手法も導入されるようになっている。日本では、平成11(1999)年に導入されたエコファンドが最初の社会的責任投資といわれており、環境保護に関するグリーンファイナンスが多く行われてきたが、最近ではより広い範囲の社会的責任が問われるESG投資への関心も高まっている。ただし、社会的責任投資に関する課題として、CSRやESGを追求するあまりに収益性が損なわれる場合には、投資家の利益を毀損するため受託責任に反するという批判がある。また、財務以外の非財務情報を用いてスクリーニングを行う際に、企業が十分な情報を開示できておらず、必要な情報を入手することが難しいという問題もある。さらに、日本ではそもそも投資への意識が低く、CSRやESGに対する関心も高くないため、世界的にみても社会的責任投資が低調であると指摘されている。  なお、社会的責任投資とは異なる潮流であるが、広い意味でのESG投資の一種として、近年では社会的インパクト投資に対する関心も高まっている。社会的インパクト投資とは、経済的リターンと同時に、貧困や環境などの社会的課題の解決という社会的リターン(インパクト)を追求する投資手法であり、ワクチン債、マイクロファイナンス・ボンド、グリーン・ボンド、ウォーター・ボンドなどが含まれる。社会的インパクト投資は、社会面・環境面での持続性に配慮するという点で社会的責任投資との類似性を有しているが、経済的リターンだけではなく、社会的リターン自体も投資目的としているという点で社会的責任投資とは異なっている。
(馬場英朗)