社会的起源理論

 1つは「契約の失敗」や「政府の失敗」の経済理論の限界に対する、1つは通俗的な福祉国家論の限界に対する回答として、NPO研究者のSalamon, L.M.( サラモン)とAnheier,H.K. (アンハイアー)が展開した「社会起源説」と称する比較歴史理論である。この理論の狙いは、国際的にみてなぜ国によって非営利セクターの規模も構成も多様であるのかを説明することにある。そのために、非営利セクターの発展にかかわる幾つかの社会的・政治的要因を探り、その結果、諸国間に広がる非営利セクターは違った歴史的「拠り所」があり、違った社会的・経済的な「形状」をみせるとして、つぎのような非営利発展の4つの種類の「非営利組織制度」を確認した。それぞれの非営利組織制度は政府の社会福祉支出の程度と、非営利セクターの規模の2つの要素を用いて区別する。①一方の極には、政府の社会福祉支出が少なく、非営利セクターが相対的に大きいアメリカやイギリスのコモンロー諸国の「自由主義」型がある。そこでは中産階級が強く社会問題の解決に政府が介入するよりもボランタリーの活動を選ぶ。従って、政府の社会福祉支出は限定され、非営利セクターが拡張する。自由主義の政府支出が増えれば、非営利セクターは少なくなる。②他方の極には、労働者階級が支配的な社会で、スウェーデンや北欧諸国でみられる「社会民主主義」型がある。社会福祉サービスに関して資金とサービスを供給する国の役割が大きく、自由主義のサービス供給型非営利組織の余地はほとんどない。そこでは、アドボカシーやリクリエーションなどの表現型非営利組織が発達する。非営利組織は「市民社会」セクターの理念に近い存在になっている。③この2つのモデルの間に、強い国家を特徴とする非営利組織制度がある。1つは、日本のような保守主義的な「国家管理主義」で、強固な官僚制が社会的諸政策を支配していて、中間層が弱く労働階級は分裂しており、社会保障への国の支援がかぎられているので大きな非営利セクターが成長しない。自由主義の社会のように政府支出が少なくて非営利セクターの領域が大きくなるのではなく、政府支出も非営利セクターもともに少ない。④1つは、地主階級が強くかつ中間階級と労働者階級の圧力を受けている社会で、ドイツやフランスの「協同主義」型がある。国が社会福祉保障を厳しく要求する階層を封じながら、エリート層の支持をえるために前近代的体制を慎重に保守する1つの機能として非営利セクターと協同するよう誘発される場合に非営利組織があらわれる。そこでは国が非営利組織を通して社会福祉に大きく関与する。協同主義の政府支出が増えれば、非営利セクターは相対的に増える。日本と分けるのは近代化の過程における下層階級の抵抗の強さである。  この理論は経済諸理論のような仮説の単純性には欠けるので実証することは困難である。また、従来の経済諸理論のある種の限界を指摘していることは確かであるが、この理論が確認した4つの非営利組織体制は理念型であり、現実はいくつかの特徴を含めた混合である可能性がある。さらに、この理論は政府と非営利の2つのセクター二分社会のうえに構築されていて「政府の失敗」の展開にすぎないとの批判がある。
(堀田和宏)