アメリカにおいて社会的企業という用語は、非営利組織による財政問題(民間の寄付や政府の補助金の低下)への対応のためのビジネス的手法を用いた事業収入の獲得、企業によるフィランソロピー活動(社会貢献活動)などを分析するための幅広い概念として用いられる傾向にある。非営利組織でのビジネス手法の導入や営利企業での社会的目的の追求の革新的な取り組みはソーシャル・イノベーションとして理解される。ソーシャル・イノベーションの実践と普及の担い手としての社会的企業家(ソーシャル・アントレプレナー)の行動が着目され、その行動を裏付ける社会的企業家精神(ソーシャル・アントレプレナーシップ)の発露のありようの分析もすすめられるようになった。ヨーロッパでは、社会的排除の克服の担い手として社会的企業という概念が注目を集めるようになった。社会的排除の克服に主眼をおく社会的企業論では、主として非営利組織および協同組合が対象となり、それらのガバナンスの構造(社会的所有のあり方、意思決定における民主的原理や参加のあり方)が論点となる。サービスの受け手が事業組織の意思決定にどのように参加するかが問われるのである。社会的排除の克服に向けて重視される活動分野が、社会的弱者に対する社会サービスおよび就労の場の提供である。その担い手として社会的企業の存在が注目されるようになった。なかでも、これまで福祉の受給者であった者が就労を通じて自立する方向性が社会政策の変化(福祉国家の危機・変容)とともに打ち出され、就労の場をつくりだす重要性が高まるなか、社会的弱者に働く場を提供することを主眼にした事業組織は労働統合型社会的企業と呼ばれ、社会的企業の重要な位置を占めるものとして認識されるようになる。社会的弱者に働く場を提供する事業組織への注目はヨーロッパのみならず、アメリカでもアジア諸国でも高まっている。
(橋本 理)