社会的企業

 一般には「社会的使命を伴った市場志向型の組織」を指す。営利企業を社会的企業とみなすかどうかは論者によって異なり、社会的企業を非営利組織や協同組合に限定する論者と、営利企業の社会貢献活動なども議論の対象とする論者に分かれる。社会的企業という言葉は法人制度に捉われずに用いられる傾向にあるが、社会的企業の事業活動に適合的な法人制度が各国であらわれており、イタリアの社会的協同組合、イギリスのCommunityInterest Company、アメリカのLow-profitLimited Liability Companyなどがその例である。アジアでは、韓国やタイにおいて社会的企業を定める法制度が存在する。日本の法制度では生活困窮者自立支援法(平成25年法律第105号)のもとでの就労訓練事業を経営する主体の1つとして社会的企業が位置づけられている。社会的企業という概念が登場した背景には、①非営利組織の事業化の進展、②営利企業による社会貢献活動の進展、③社会政策の変化への対応があげられる。アメリカでは主として①と②を背景とした議論、ヨーロッパでは③を背景とした議論がすすめられてきた。
 アメリカにおいて社会的企業という用語は、非営利組織による財政問題(民間の寄付や政府の補助金の低下)への対応のためのビジネス的手法を用いた事業収入の獲得、企業によるフィランソロピー活動(社会貢献活動)などを分析するための幅広い概念として用いられる傾向にある。非営利組織でのビジネス手法の導入や営利企業での社会的目的の追求の革新的な取り組みはソーシャル・イノベーションとして理解される。ソーシャル・イノベーションの実践と普及の担い手としての社会的企業家(ソーシャル・アントレプレナー)の行動が着目され、その行動を裏付ける社会的企業家精神(ソーシャル・アントレプレナーシップ)の発露のありようの分析もすすめられるようになった。ヨーロッパでは、社会的排除の克服の担い手として社会的企業という概念が注目を集めるようになった。社会的排除の克服に主眼をおく社会的企業論では、主として非営利組織および協同組合が対象となり、それらのガバナンスの構造(社会的所有のあり方、意思決定における民主的原理や参加のあり方)が論点となる。サービスの受け手が事業組織の意思決定にどのように参加するかが問われるのである。社会的排除の克服に向けて重視される活動分野が、社会的弱者に対する社会サービスおよび就労の場の提供である。その担い手として社会的企業の存在が注目されるようになった。なかでも、これまで福祉の受給者であった者が就労を通じて自立する方向性が社会政策の変化(福祉国家の危機・変容)とともに打ち出され、就労の場をつくりだす重要性が高まるなか、社会的弱者に働く場を提供することを主眼にした事業組織は労働統合型社会的企業と呼ばれ、社会的企業の重要な位置を占めるものとして認識されるようになる。社会的弱者に働く場を提供する事業組織への注目はヨーロッパのみならず、アメリカでもアジア諸国でも高まっている。
(橋本 理)