社会貢献

 民間非営利セクターの本来的な存在意義である。そもそも社会に貢献する活動は、市場と政府の失敗を是正するという側面が強調される。つまり、市場や政府による集合財(対価支払いの有無にかかわらず享受できる財やサービス)の供給には限界があり、これを補完するのが民間非営利セクターだという見方である。しかし、このような見方では、現実において多様な活動を展開する民間非営利セクターの機能を十分に説明することができない。民間非営利セクターは社会のなかで政府による支援が行き届かない領域のみで活動するのではなく、より広範な社会的課題に積極的に取り組んでいる。 Salamon, L.M.( サラモン)は、政府が民間非営利セクターの限界を補完するという関係性を提唱している。民間非営利セクターは、市場では対応できない社会的課題に取り組むことをアイデンティティーとするが、その一方で「ボランタリーの失敗」を引き起こす可能性がある。これは、①フィランソロピーの不足、つまり多様な財源の確保が困難であること、②フィランソロピーの専門主義、つまり特定の社会集団における利害のみを代表することで排他的になりうること、③フィランソロピーの父権主義、つまり最大出資者による支配が被支援者の自立を妨げかねないこと、④フィランソロピーのアマチュア主義、つまり複雑な社会的課題に対して素人的手段で対応すること、によって発生する。これを是正することが政府に期待されていると理解することで、民間非営利セクターと政府の多様なパートナーシップを現実に即して把握することが可能になる。しかしながら、現代では別の動きが重要性を増している。民間企業が社会貢献の一環として非営利セクターの組織と協働する動きである。2010年代、世界的に重要なキーワードとして「持続可能性」が注目されるようになり、そのような潮流のなかで民間営利セクターも、社会の持続的な発展の担い手であるべきという意識が強まってきた。企業の社会貢献は、日本の場合、1970年代からフィランソロピーやメセナ活動として展開されてきた。しかし、21世紀以降には積極的で能動的な社会貢献が求められるようになり、CRM(Cause Related Marketing)などの利益追求と社会貢献を両立させる取り組みが広がりをみせている。このような民間企業の動きは、民間非営利セクターにおけるボランタリーの失敗を補完する可能性をもつといえる。民間非営利セクターの専門知識やネットワークを最大限に活用しつつ、民間企業の資金力、人材、組織運営のノウハウなどを組み合わせることによって、より効率的に社会貢献へ取り組むことが求められている。
(渡辺 亨)