社会運動

 社会問題の解決を目的として行われる集合行為であり、変革を指向する。現状の問題から将来予想される事態まで対象となる。社会、政治にかかわる体制や制度、資源配分の現状、社会規範、意識や価値観まで幅広い。広義には社会主義運動や革命運動等が含まれるが、狭義には資本主義の発達とともに発生した社会問題を、労働者と資本家の階級対立の克服を通じて解決しようとする運動を指す。産業社会の労働構造に依拠して必然的に発生するとされ、組織的で寡占的な指導層により方向づけられた。運動の発生は社会主義的な政党による動員によった。一方、1970年代以降に展開された「新しい社会運動」は、階級対立や労働運動と対比される。西欧諸国にみられた、学生運動、エコロジー、フェミニズム、反戦・平和、エスニシティ、地域主義等にかかわる運動を総称してTouraine, A. (トゥーレーヌ)、Melucci, A. (メルッチ)らが提唱した。アイデンティティーや自己決定権の強調、生活領域の重視、直接民主主義への指向、参加者の資格を限定しない開放性に特徴がある。社会運動を脱産業主義、反近代化主義的な行動様式であると位置づけマクロ的な視点から分析し、社会運動の領域が内的動機やアイデンティティーの追求にかかわるものとなることを理論づけた。この立場からは、私的領域に属するようにみえる社会運動の主題が既存の社会構造から発生しているものとなり、公共圏の役割が強調される。一方で、アメリカの研究者は同様の事象をみつつ資源動員論を提唱、社会運動が非合理的で感情的、偶発的な集合行為であるという見方に対して、個人の合理性と運動の組織的側面を強調し、政治過程の一部として分析する必要を提唱した。日本では双方が取り入れられた。なお、社会運動の発生を説明するものとしてほかに、政治的機会構造、構造的ストレーン、フレーミング等の観点が提起されている。社会運動の動機となる社会的充足感は主観的であり、基本的ニーズが満たされたとしても、さらに高次の欲求充足を目指して深化する。1980年代に入ると、個別にすすめられている新しい社会運動も、「もう1つの世界」をつくりだす点で共通するという「ネットワーキング」(Lipnack, J. and Stamps, J[. リップナックとスタンプス])の考え方が提唱され、運動間の連携がすすんだ。その後の情報化の進展と相まってネットワーキングの可能性に期待がもたれたが、理念的な運動の限界が指摘されることもあった。
 社会主義国の崩壊や資本主義が限界を露呈するのをみた1990年代以降には、1970年代に強調された公共圏の役割が拡大している。こうしたなかで事業指向、市場指向のNPO・NGOの活動が活発化しているが、これらを社会運動として位置づけるかという議論がある。また、SNSを用いて1人で発議する行為は集合行為とみなせるか、市民社会に基盤をおくことや変革指向が前提とされてきた社会運動に反グローバリズムや保守主義をどう位置づけるかなどの議論がある。
(勝田美穂)