市民運動

 政治参加の一形態で、政治的あるいは社会的問題に対する要求を掲げて、広範な市民が参加して展開される運動である。1960年代半ば以降の参加民主主義の高まりのなかで活発化した事象をとり上げて用いる。公害、地域格差、開発行政、物価上昇など、地域の問題や個別の生活環境の改善を目指すものを住民運動とし、環境保全、ジェンダー、少数者の権利擁護、政治腐敗への異議申立てなどの包括的な広がりをもった運動と区別するものもある。しかし前者についても、環境保全や社会権の保障などとして主題化することで広範な意味づけが可能なため、両者を同義に用いる傾向が強い。広義には社会運動に位置づけられるが、政党や利益集団、労働組合が主導して動員により成立する運動と区別するため、個人の自発的な参加により成立し、非恒常的、非組織的、非制度的であるとされる。市民という言葉に参加や自治意識を強調した規範的な意味を込めて、差異化が論じられる。社会学で「新しい社会運動」として理論化された事象と同一性があるが、一般的な用語としては市民運動として浸透している。市民運動には、社会や経済状況の変化に伴う新しい選好を政府に伝える役割があり、政策の変更を求める場合もある。たんなる抵抗、告発というより民主主義に基礎づけられた権利意識に基づいた要求運動であり、対話的、協調的である。運動の方法としては、請願・陳情、デモ・集団交渉、議員や行政との接触、マスコミとの連携による世論の喚起などの手段が用いられる。既存の組織や政党が対応しきれていない新しい問題を提起することで、アジェンダ設定に一定の役割を果たしてきた。オイルショックを経た1980年代に入ると、総保守化傾向が強まったこと、市民運動の主要な対象領域であった公害や開発行政に一定の収束をみたことで、運動の方向性にも多様化がみられる。議会に議員を送ることや直接請求に発展するもの、審議会等の政策立案の場へ参加し行政との連携を指向するものなど、制度化された体制のなかで継続的に影響力を発揮する展開がある。また、当事者性を自覚しつつ事業体を形成し直接問題解決に取り組む方向もある。これらの動きは政府セクター、市場セクターの限界が露呈した1990年代以降、市民セクターの役割が国際的にも再認識されるなかで広がりをみせているが、政府への対抗性、批判性という点から市民運動との連続性を否定する見方もある。
(勝田美穂)