慈善

 豊かな者から貧しい者への施与的な行為を指す。慈善には、宗教的思想を背景としたものと為政者によるものに大別できる。ヨーロッパ圏ではユダヤ教・キリスト教思想、アラブ圏ではイスラム教思想によるものである。これらは、古代から受け継がれてきた宗教的行為であった。その後、近世の王・諸侯などの貴族階級による封建社会では、農民への支配体制が確立されていくなかで、領地の農民の生活が苦しくなると、自身の財力をもとに慈善活動を行う貴族階級の者もあらわれた。その象徴として「Lady Bountiful」と呼ばれる、食料などを携えた高貴な女性が貧者へ施与するものである。近代になると慈善活動は市民活動家から批判された。それは、慈善活動が施与する者による一方的な援助であり、施与を受ける者の背景などに関心を寄せなかったためである。実際にロンドンでは浮浪者が急増した際に職業乞食と呼ばれるものがあらわれるなど濫救・漏救が問題となった。一方で、慈善活動からさまざまな社会活動が生まれたことも事実であり、19世紀イギリスには教育活動、医療活動、貧困支援を行う団体があった。また福祉史においては、慈善組織協会(COS:Charity Organization Society)の活動が良く知られ、援助が必要な者に一定の基準を設けるといった客観的な手法を行う団体もあった。なおCOSの活動はその後のソーシャルワークと呼ばれる援助活動の源流の1つとなった。批判される慈善活動であるが、現在においても世界各国で行われている。慈善活動への積極的な評価として、時代ごとの社会が抱える社会問題への先駆的、開拓的な要素が含まれており、その評価においては立場によって意見が分かれる。
(種村理太郎)