CSV

 Creating Shared Valueの略字であり、共通価値の創造と訳される。Porter, M. E. andKramer, M. R(. ポーターとクレイマー)(2011)がHarvard Business Reviewのなかで提唱した概念である。CSVの基本的な考え方は、現代社会が直面しているさまざまな社会的課題に対して、企業がビジネスの手法を用いて挑み、社会的課題の解決を図るとともに経済的な利益もえるというものである。つまり、企業が追求する経済的価値と社会的課題を解決するための社会的価値を同じベクトル上で捉え、両者の関係をトレード・オフではなく、ウィン・ウィンの関係として認識しようというものである。CSVの考え方はCSR(Corporate SocialResponsibility)を発展させたものであるという見方があるが、両者のコンセプトは基本的に異なる。企業の視点に立ってCSRとCSVを捉えた場合、CSRは本業とは切り離して実施すべき性質のものであり、社会的責任の遂行や社会貢献活動の実施は倫理的、道義的観点から行うものと考えられている。これに対してCSVはまさに本業そのものの活動として認識されており、企業はCSVの実践を通じて市場を開拓し、経済的利益をえることが目的となっている。ポーターとクレイマーによれば、CSRは今日広く普及しその重要性は認識されているものの、企業活動に根づいているとはいい難い状況にあるという。その理由は、CSRが本業に組み込まれていないからであり、本業に結びつかない活動は次第に形骸化することになるという。企業が社会的課題に本腰を入れて取り組むためには、本業に結びついていることが必要であり、CSVはこの点においてCSRとは大きく異なっている。CSVが想定する社会的課題は多岐にわたるが、貧困問題にビジネスの手法で挑むBOP(Base ofthe Pyramid)ビジネスはその代表的なものである。貧困問題は現代社会が直面する社会的課題の1つであり、世界的に富の格差は拡大している。その構図は、先進国と発展途上国という図式のみならず、豊かな先進国のなかでも富裕層と貧困層の経済的な格差が広がっている。この問題に対する従来のアプローチは、豊かな国あるいは富める人々が貧しい国、貧しい人々に経済的な支援を与える「援助」という手法をとることが一般的であったが、問題を根本的に解決するまでには至っていない。BOPビジネスは、ビジネスの視点から貧困問題の解消に取り組むという新しいアプローチをとっており、Yunus, M. (ユヌス)氏の創設したバングラデシュのグラミン銀行の実施しているマイクロ・クレジットは有名である。
(所 伸之)