CSR

 Corporate Social Responsibilityの略で、企業の社会的責任をいう。近年、企業が大規模になるに従い社会へ与えるインパクトが強く、その結果企業にとり社会からこれまでにはないニーズが生まれるようになった。企業は古典的な株主の所有物という考え方から、1つの社会制度、社会的な機関として存在するという考え方が定着してきた。企業に求められるのは、利益の追求や法令遵守だけではなくあらゆるステークホルダー(株主、顧客、従業員、取引相手、地域の住民等)の多様なニーズに対して適切な対応を取る責任がある。人権の尊重はもとより労働条件・消費者への適切な対応、環境への配慮、地域社会への貢献等、企業が果たすべきこうした責任を企業の社会的責任という。たとえば、アメリカのCSRのルーツは、企業の慈善事業にあった。経営者や慈善活動家の『富の福音』(TheGospel of Wealth and other timely essays(1901)を書いたCarnegie, A(. カーネギー)や、CSRの父と呼ばれるBowen, H(. ボーエン)の『経営者の社会的責任』(Social Responsibilities ofthe Businessman(1953)が社会に影響を及ぼした。CSRが企業で本格的に注目され始めたのは1970代からである。1971年の経済開発委員会(committee for economic development)で宣告された企業と社会の間の社会的契約(socialcontract)という概念が定着した。企業の役割は、公共の承認に基づくという思想である。イギリスのCSRは、1800年後半の産業革命による製造工場の稼働への非難である。アメリカと同じで多くの社会問題の根源は、女性や子供の労働が中心である。労働不安、貧困、スラム、子供や女性労働を生んだ製造工場の制度にあるということを、改革指導者たちは認識し始めた。福祉問題が、企業と労働問題の解決に影響するものとして広まった。日本は昭和31(1956)年に経済同友会がCSRの決議をした。大企業は強大な競争力によって販売市場を独占し、一般消費者の利益を阻害しないように経営者は社会的責任を負うというものである。経済のグローバル化がすすみ、企業は国境を超え各地域で活躍する。そこには文化、慣習等の差異、あるいは企業と地域社会との軋轢等の問題に直面する。国内はもとより国際的に企業が果たすべき社会的責任の原則、基準が求められ、それに応える企業行動の指針である国際規格ISO26000が平成22(2010)年に発効した。中核の主題は人権、労働慣行、環境、公正な事業慣行、消費者課題、コミュニティへの参画、コミュニティの発展である。社会的責任の目的は持続的な発展に貢献することとしている。
(山田國雄)