(吉田忠彦)
サプライサイド理論
非営利組織の存在理由をめぐる初期の理論は、Weisbrod, B. A.( ワイズブロッド)の「公共財理論」やHansmann, H.( ハンズマン)の「契約の失敗理論」に代表されるように、経済学をベースにした需要側(demand-side)の状況から説明するものだった。つまり、需要の大きさや分散とそれに応えるための政府の財源との関係から、政府の限界をカバーする非営利組織の存在が説明されたり(公共財理論)、営利企業を前提としては契約が失敗(成立に至らない)してしまう市場においてそのニーズに応える非営利組織の存在が説明される(契約の失敗理論)。これらのデマンドサイド理論では、特定の需要に対する応答として非営利組織が発生し、しかもそれは本来公共財を供給すべき政府を補完したり、本来市場で財を提供すべき営利企業を補完するという役割を担うものとしている。しかし、経営学や組織論などを背景にした研究から、より現実的な非営利組織の姿を観察した場合、政府や営利企業を補完することを意図して設立されることはなく、むしろ財の提供をめぐって政府や営利企業と競合していたり、アドボカシーなど政府や営利企業を告発する活動を行う非営利組織も多いことが指摘されている。さらに、社会課題の解決を目指して自らが新しい事業を起こしたり、人びとの啓発を行うことを意図する起業家としてのインセンティブが重要であることを指摘する研究も多い。それらの非営利組織の側からその発生や役割を論じる理論は、経済学的なデマンドサイド理論と対比してサプライサイド(supply-side)理論と呼ばれる。 なお、経済学においては、財政政策などによって有効需要を生み出すケインジアンの経済学をデマンドサイド経済学とし、1980年ごろからのレーガノミクスなどで台頭したポストケインジアンの経済学をサプライサイド経済学と呼ぶ。