在宅医療

 患者の居宅で医療を行うことである。外来・通院、入院に次ぐ「第3の医療」といわれる。在宅自己注射、在宅酸素療法、在宅透析、経管栄養など医師の指導に基づいて患者が自ら行う在宅医療、および往診、訪問診療、訪問看護など医療従事者が患者の居宅を訪問して行う在宅医療がある。なお、訪問計画に基づいて定期的に医師が患者の居宅を訪問して行う訪問診療と、突発的な発病や病状の急激な悪化などに対応するために不定期で医師が出向く往診は区別されている。在宅医療のための訪問看護ステーションの整備や、酸素濃縮器のように自宅で扱える簡便な医療機器の開発がすすんだこと、医療的な処置がかぎられる慢性疾患患者の増加などによって、在宅医療を実施することが可能となった。在宅医療が必要とされる背景には、現在すすめられている地域包括ケアシステムづくりのなかで在宅医療の果たす役割が大きいことや、ニーズの高まりがある。ニーズの点でいえば、これまではおもに通院が困難な長期療養者や、居宅での看取りを希望する高齢者のターミナルケアなどが想定されていたが、加えて医療技術の発達により新生児特定集中治療室(NICU)等の退院後に医療的ケアを日常的に受けながら生活する小児患者も増加しており、この点からも在宅医療の整備の必要性が指摘されている。在宅医療の提供体制には、在宅医療を受けている患者が居宅で急変した際に緊急で入院できるように備えることや、退院後の在宅医療に円滑に移行できるよう入院患者に対して退院支援を行うことも含まれており、居宅のみで完結するものではない。そのため、患者の居宅と医療機関、在宅医療にかかわる各機関が連携し、24時間対応できる体制を整えることが必要である。在宅医療の内容は多岐にわたるため、多くの職種の医療従事者が居宅を訪問し、在宅医療を実施する。医師による訪問診療、往診と看護師による訪問看護が知られているが、ほかにも歯科医師による訪問歯科診療、薬剤師による訪問薬剤管理(薬の飲み合わせの確認や管理等)、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などによる訪問リハビリテーション、管理栄養士による訪問栄養食事指導などがある。これら職種間の多職種連携も在宅医療提供体制づくりの課題とされている。在宅医療の推進にあたっては、これまで在宅医療関連の診療報酬を引き上げて誘導したり、積極的役割を担う医療機関として在宅療養支援診療所、在宅療養支援病院の導入などが行われてきた。今後の課題として、診療所・病院と行政、関係団体同士の連携体制の構築、強化のほか、ICT(Informationand Communication Technology)を活用した遠隔医療システムの整備、在宅医療に関する知識の普及、啓発などが議論されている。
(山下智佳)