コンプライアンス

 もともと企業が営利活動を遂行するにあたって、法令を遵守することであったが、近年では意味が拡大し、企業が自ら定める経営方針、倫理基準を順守することとなってきている。かつての日本的経営が変質し、内部告発も増え、企業経営者が不祥事を明らかにし陳謝する風景は枚挙にいとまがない。企業のみならず、行政においても不祥事が社会にさらされている。企業であっても、行政であっても、コンプライアンスを順守しなければその存在自体が問われることに繋がる。社会を変え、人間を変えていこうとする非営利組織にあっては、善良なミッションに従いコンプライアンスを順守することは最低限の要請であって、必要条件の第一歩といえる事項である。それにもかかわらず、非営利組織においても不祥事を起こし社会の批判を浴びている現実も軽視することはできない。それは、自らの存立を危うくするばかりか、非営利組織全体への社会からの評価をおとしめることになる。企業においては、コンプライアンス担当役員、コンプライアンス委員会、内部通報制度等の設置がなされることが多い。そこでは、コンプライアンスを前向きに推進する働きと、問題が生じたときの対処等が議論され実践に移されている。さらにチェック機関として、監査役、取締役会が法的にも位置づけられている。関係者の善意促進と悪意統制の両面が前提とされているといえる。非営利組織にあっては、関係者の善意が前提とされているので、企業に比しコンプライアンスが守られやすい環境下にはあるといえよう。しかし反面、懸念も残されている。問題は発生しないであろうという楽観、仲間としてのなれ合い、問題を発見しても人間関係を乱すおそれからの黙視等である。非営利組織は公益のために存在しているので、企業よりも厳しく管理されなければならない。非営利組織においてコンプライアンスを組織内に徹底するために重要なことは、自らのミッションを明示し理解を共有することである。そしてトップがそれをしっかりと意識し実践していることが不可欠である。そのうえでコンプライアンスを順守するための制度や徹底が必要になる。朝礼や会議、そして研修等を通して、組織として個人としてコンプライアンスの重要性を浸透させていくことに留意しなければならない。コンプライアンスに懸念がみられるときには、信頼感のもとで個別に話し合う、あるいは集団で検討する等の措置が有効になることも多い。もとより理事会、監事等のガバナンスが機能していなければならない。非営利組織にあっては、スタッフもボランティアも、組織の掲げるミッションと個人の価値観とが整合されて活力が生まれていく。それが乖離しないようにマネジメントされていくことが、積極的に非営利組織の事業展開に活力をもたらし、コンプライアンスを順守することに繋がっていく。
(島田 恒)