コレクティブ・インパクト

 特定の社会課題に対して、単一セクターの経営資源や組織能力により解決するのではなく、企業、非営利組織、行政、市民など多くのセクターが境界を越え相互に強みやノウハウをもち寄りながら社会課題に対する働きかけを行うことで課題解決や大規模な社会変革を目指すアプローチを総称する用語である。Kania, J. and Kramer, M(. カニアとクラマー)(2011)によりコレクティブ・インパクトという用語が提示される以前から試行錯誤的に多くの実践的取り組みがなされ、積極的推進論者がいる一方で、過去の動きを冷静に評価し新たな展開を提案する流れもあらわれている。コレクティブ・インパクトの例として有名なのは、教育課題を解決するプロジェクトとして「ゆりかごから就職まで」をスローガンに、幼稚園から小中高へと成長する過程で多様なプレイヤーが協働することで教育課題を解決してきたstrive togetherのケースである。このケースは、アメリカで直面している大学生の学力問題は、大学時代の勉学内容そのものよりも、むしろ中高時代さらには幼児期に直面した課題までさかのぼって取り組むことで解決可能な社会課題であることを認識し、地域の多様な組織が連携したケースである。最終的には、Kramer, M.( クラマー)らによってコレクティブ・インパクトの成功条件として、共通のアジェンダ、共通の評価システム、相互支援活動、継続的なコミュニケーション、バックボーン支援組織の5つの要素にまとめられることになる。日本でも各地で萌芽的な取り組みがなされつつあるが、共通アジェンダや評価システム、効果的な協働過程、バックボーン支援組織としての中間支援組織、必要な資金や人材、などに関して課題も多い。コレクティブ・インパクトを流行に流されずに着実に普及定着させていくためには、バックボーン組織や人材の育成、社会的評価システムの検討、多様なファンドレイジングの仕組み、などを中心にした成功事例の発掘や客観的分析が必要である。
(佐々木利廣)