コミュニティ放送

 平成4(1992)年に制度化された市町村等特定地上基幹放送局をいう。第1号「FMいるか」が同年12月に函館市で、翌年守口市、豊橋市、葉山町、旭川市が続き、その後、全国に誕生したコミュニティ放送局は令和3(2021)年6月に335局に達した。住民の生活を重視した文化、観光、交通、行政などきめ細かい地域密着型の情報発信が目指されている。また近年の最大の目的は防災や災害救援で、地域行政の各機関とも連携し、被害を最小限に抑える役割を果たし、注目されている。広告を財源とする民間商業放送が圧倒的に多いが、平成7(1995)年阪神・淡路大震災直後、寄付をもとに相互救援の目的で設立された住民主体の多言語ラジオがモデルとなり、平成15(2003)年には特定非営利活動法人が運営する初の非営利局が京都で放送を開始、寄付や会費をも財源とする多様な法人形態のラジオ局が各地で活動を始めた。いずれの形態の放送局も財源が潤沢とはいえず、廃局もあらわれ、インターネット経由の配信に切り替えるなど、持続可能な運営のあり方が模索されている。さらに災害・感染症などが地域経済を打撃し、ニュースは地元地方新聞に頼るなど報道の仕組みが確立しないことが多い。またボランティアを多用した住民参加型の放送が趣味に陥らないよう、公共性を担えるよう試行錯誤が続いている。たとえば、コミュニティ放送事業者の連帯する「一般社団法人日本コミュニティ放送協会(JCBA:Japan Community Broadcasting Association)」が、相互啓発や放送倫理の向上などを理念とし、望ましい放送のノウハウを共有するための活動を行い、「コミュニティ放送事業者の新型コロナウィルス関連ガイドライン」を打ち出しているし、また世界コミュニティラジオ放送連盟(AMARC:AssociationMondiale Des RadiodiffuseursCommunautaires)と連帯する非営利放送局は、災害大国日本の被災経験に根差した放送経験を海外に提供する機会も多い。そもそも炭鉱労働運動や反原発運動からの呼びかけや、人々の自由な表現に用いられたラジオが起源となったのが世界のコミュニティラジオである。いずれも非営利の市民運動に支えられていることがユネスコやEU(European Union)などで謳われ、公的な財源も投入されつつ、子どもや女性の参加や、環境、人権、平和等の市民運動のキャンペーンに活用されることが多い。一方、日本のコミュニティ放送は、総務省の免許事業であり、防災と生活情報の提供、地域産業振興が中心でありつつも、市民社会の拡充を背景に市民参加や放送番組の多様性が次第に豊かに展開しつつある。
(松浦さと子)