コミュニティ

 多義的な概念であるが、共同体、地域社会等と訳されることが多い。学術的な概念として「コミュニティ」を最初に提起したのはMacIver, R. M .(マッキーヴァー)といわれる。マッキーヴァーは、アソシエーションと対比してコミュニティを説明し、人間の共同生活が営まれる村や町、地方や国あるいはより広い地域をコミュニティとしている。人間がともに生活を営むとき他の地域と区分される特性(たとえば、作法、伝統、話し方など)が育まれるようになり、この特性が共同生活の証であり結果であるとしている。日本においては、戦後の高度経済成長と都市化等を背景に、昭和44(1969)年、国民生活審議会調査部会・コミュニティ問題小委員会が「コミュニティ―生活の場における人間性の回復―」を発表した。このなかでコミュニティを「生活の場において、市民としての自主性と責任を自覚した個人および家庭を構成主体として、地域性と各種の共通目標をもった、開放的でしかも構成員相互に信頼感のある集団」と定義づけている。その後の日本のコミュニティ政策は、平成7(1995)年の阪神・淡路大震災により大きな転換期を迎えることになる。後年、「ボランティア元年」と呼ばれるように震災直後から多くのボランティアが活躍した。このことが大きな要因となり、平成10(1998)年、NPO法(特活法)が施行される。従来のコミュニティベースの組織は地縁組織である自治会・町内会を中心に考えられ、コミュニティ政策も同様であった。しかしこれにより、NPO等もコミュニティを支える担い手と考えられるようになる。その後も総務省にさまざまな研究会が設置され、平成17(2005)年には「分権型社会における自治体経営の刷新戦略―新しい公共空間の形成を目指して―」が発表される。行政だけでなく、自治会・町内会、NPO、企業などの多様な主体がコミュニティを支える「新しい公共空間」の形成が目指された。平成27(2015)年には「暮らしを支える地域運営組織に関する調査研究事業報告書」が発表され、「地域運営組織」という概念が提起される。地域運営組織は「地域の暮らしを守るため、地域で暮らす人々が中心となって形成され、地域内の様々な関係主体が参加する協議組織が定めた地域経営の指針に基づき、地域課題の解決に向けた取組を持続的に実践する組織」と定義された。前述のNPOや任意団体等が地域課題を解決する主体として、地域運営組織として位置づけられたのである。令和元(2019)年に総務省が発表した「平成30年度地域運営組織の形成及び持続的な運営に関する調査研究事業報告書」によれば、全国で4,787の組織が活動しているという。
 今後の課題としては、先の調査で回答した市区町村のうち58.4%には地域運営組織がなく、この地域にどのようにして地域運営組織を形成していくのかが大きな課題の1つとされている。また、行政からの支援策のうち助成金等の活動資金支援が73.0%であることも報告されている。そこで、コミュニティ便益基準をどのように考えるかが課題となる。公共支出評価の1つである費用便益分析において、助成金等の便益は、地域運営組織の活動量ではなく、活動により地域課題がどの程度解決されるか(されたか)など、コミュニティに与える効果を便益として設定する必要があろう。しかし一方、活動内容の違いで効果があらわれる時期が異なる可能性や地域性が影響することも考えられる。この点、同調査では明らかにされていないが、今後の実績の積み重ねと調査研究が必要である。
(黒木誉之)