互酬性

 贈与に対して社会規範として何らかの形で返礼を行うことを互酬性という。寄付やボランティアを贈与と考えたとき、互酬性の問題が生じる。互酬性とは返礼の原則であるが、必ずしも対人性を前提としたものではなく、返礼の相手は贈与を受けた相手とはかぎらない。その点で契約に基づく交換とは大きな違いがある。阪神・淡路大震災で被災者としてボランティアの支援を受けた人が、東日本大震災のときには、逆に積極的にボランティアとして被災者支援をすることは互酬性の発露と考えられる。また、社会的交換理論では社会的是認によって返礼を受けたと捉えることもある。たとえば、企業ボランティアの活躍によって、企業の評価の向上に繋がることも互酬性のなかで理解される。他方で、ボランティアのなかには無償性を重視して一切返礼を受けたくないという人もいるが、ボランティアを受けた側は互酬性から何かを返礼として受け取ってもらわないと気が済まないという人もいて、両者の間に軋轢が生じることがある。とりわけ、福祉の分野ではボランティアを受けた人が返礼をしないことで心理的負担が大きくなりすぎることから、感謝の印として交通費程度の返礼をルール化するようになったのが、いわゆる有償ボランティアである。有償ボランティアについて互酬性を理解することなく外形的に判断すると、たんなるサービスの対価や経済活動との区別がつかなくなり、さまざまな法的な問題が生じることにもなる。
(出口正之)