コーズ・マーケティングの起源は諸説あるが、発祥はアメリカとされる。もっとも知られた成功例は、クレジットカード会社の老舗、アメリカン・エクスプレス社の「自由の女神」修復キャンペーンである。このマーケティング事業は1983年に始まり、コーズ・マーケティングの存在を一躍世に知らしめた。顧客がクレジットカードを利用するごとに、同社が「自由の女神の修復基金」に寄付を行う。この粋なキャンペーンはアメリカ市民の高い関心を招き、同社の新規カード加入者とカード利用率は急増、多額の寄付を集めることにも成功した。アメリカン・エクスプレス社は、企業利益を伸ばすことに加えて、アメリカが誇る自由のシンボルを守るという2つの快挙を達成した。しかも企業ブランドの向上という特典まで付けたのである。しかし、コーズ・マーケティングが、売上や企業ブランドの向上にたやすく結実するわけではない。自社商品を好む顧客とコーズを好む顧客が一致するとはかぎらないからである。一見すると一石二鳥のお得な方法に思えるが、実際はマネジリアル・マーケティング(営利目的のマーケティング)とソーシャル・マーケティング(社会目的のマーケティング)の相克を乗り越える難解なマネジメントである。ゆえに自社商品とコーズ事業のマッチングを図るマーケティング部門の力量が問われる。コーズ・マーケティング自体は魅力的であるが、それだけで企業優位を築けるわけではない。多様なマーケティングを組み合わせてその相乗効果を引き出す、入念で計画的なマーケティング・ミックスを必要とする。
(川野祐二)