コーズ・リレーテッド・マーケティング

 たんにコーズ・マーケティングとも称され、略記はCRMとなる。ただし、CRMはカスタマー・リレーションシップ・マネジメント(Customer Relationship Management: 顧客関係管理)の意味でも使用されるので注意を要する。コーズ・マーケティングのコーズはよく「大義」と訳される。抽象すぎて適切でないとの指摘もあるが、大意は「社会的に善とみなされること」「社会的な課題とみなされていること」としてよい。大義や社会善の理念に基づいたマーケティングであるからには、ソーシャル・マーケティングの一環であり、企業の社会貢献という文脈からは、CSR(Corporate Social Responsibility)、企業フィランソロピー、企業メセナの一環ともみなせる。コーズ・マーケティングはその名が示すとおり、善良なる社会事業への援助を前提としたマーケティングである。特定の商品やサービスを、歴史遺産の修繕や自然保護といった慈善活動にリンクさせて、売り上げの一部を寄付する。顧客は、購買意欲を満たすために商品やサービスを購入するが、その購買行動を通じて、企業がコーズとして示した慈善事業にも寄与することができるのである。企業からすれば、慈善事業を前面に打ち出すことで商品の売上を伸ばし、企業のイメージアップを図ることができる。つまり企業利益の確保と社会善の実現という相反する行為を、日常的な商行為のなかで成立させてしまうところに、コーズ・マーケティングの魅力がある。
 コーズ・マーケティングの起源は諸説あるが、発祥はアメリカとされる。もっとも知られた成功例は、クレジットカード会社の老舗、アメリカン・エクスプレス社の「自由の女神」修復キャンペーンである。このマーケティング事業は1983年に始まり、コーズ・マーケティングの存在を一躍世に知らしめた。顧客がクレジットカードを利用するごとに、同社が「自由の女神の修復基金」に寄付を行う。この粋なキャンペーンはアメリカ市民の高い関心を招き、同社の新規カード加入者とカード利用率は急増、多額の寄付を集めることにも成功した。アメリカン・エクスプレス社は、企業利益を伸ばすことに加えて、アメリカが誇る自由のシンボルを守るという2つの快挙を達成した。しかも企業ブランドの向上という特典まで付けたのである。しかし、コーズ・マーケティングが、売上や企業ブランドの向上にたやすく結実するわけではない。自社商品を好む顧客とコーズを好む顧客が一致するとはかぎらないからである。一見すると一石二鳥のお得な方法に思えるが、実際はマネジリアル・マーケティング(営利目的のマーケティング)とソーシャル・マーケティング(社会目的のマーケティング)の相克を乗り越える難解なマネジメントである。ゆえに自社商品とコーズ事業のマッチングを図るマーケティング部門の力量が問われる。コーズ・マーケティング自体は魅力的であるが、それだけで企業優位を築けるわけではない。多様なマーケティングを組み合わせてその相乗効果を引き出す、入念で計画的なマーケティング・ミックスを必要とする。
(川野祐二)