(李 焱)
公的会計責任
パブリック・アカウンタビリティとも称され、政府が国民や住民に対して、「知る権利」に基づいて説明すべき責任を意味する。すなわち、公的会計責任は、非営利組織のうち公的部門、主として政府に課せられたものである。「公的public」が本来、一般大衆を意味することから、公的部門だけでなく私的部門の組織が広く社会全体に対して負う会計責任との考え方もあるが、通常、公的会計責任と称する場合には政府による会計責任を指す。ここにいう「知る権利」は、国民等が知りたいことすべての説明を要求できる無制限の権利ではない。たんに知りたい情報が国民等の意思決定にとって有用であるとはかぎらないからである。すなわち情報ニーズがあることが直ちに情報価値の存在を意味するのではなく、情報の作成にはコストがかかり、そのコストは税金で賄われるため、意思決定に役立たない情報を作成するのは税金の無駄遣いとなるからである。公的会計責任の遂行は、民主主義という政治形態においては、特に不可欠な要素であると考えられている。これは、政府が国民に必要な情報を説明する義務を果たしてはじめて、選挙等による国民の政治参加等が可能となると考えられるからである。 公的会計責任に基づく情報の利用者として、広範囲で多様な利害関係者を想定する考え方もある。この場合、納税者あるいは政治参加者としての国民や住民等、公債の売買を行う投資家、政府と取引を行う事業者等といった情報利用者が考えられている。さらにこの考え方は、多様な利害関係者が必要とする多様な情報が提供されるべきとの考え方に通じる。たとえば、納税者たる個人や法人は、税金の使途の妥当性、効率性等を知るため、納付した税金が何にどれくらい使用されたかについての情報を必要とする。行政サービスの消費者として利用料等の対価を支払う場合の個人や法人は、その対価の妥当性を判断するため、そのサービスの質のみならず、コストと価格の関係についての情報に関心をもつ。また、現時点で選挙権を有さず、選挙を通じた政治参加ができない世代は、世代間の負担の均衡に関する情報を求める。具体的には、社会保障や社会的インフラのような現在の投資に係る将来の便益と将来負担するコストに関する情報を知りたいと願うだろう。また、政府と取引を行う事業者は、国の支払能力や財務上の安定性に関する情報を、さらに国債を購入する国内外の投資家は、その投資のリスクを評価するための情報を必要とする。従って、公的会計責任の情報開示対象者は、国民という枠を超えて世界中の投資家まで対象となりうるのであり、特定の者に対する情報伝達(報告)というよりはむしろ、不特定の者に対する情報伝達(開示)という性質となる。企業会計における会計責任は、財産の管理運用の委託者に対する受託者の報告責任であり、その報告に対し委託者が承認を与えることで、受託者の会計責任が解除されると理解されている。公的会計責任では、納税者を財産の管理運用の委託者とし、行政側をその受託者として捉え、両者の間で国会や議会において代議員制により、予算および決算を通した責任解除を行うことは想定できるものの、多様な利害関係者に対する情報開示を求める立場から公的会計責任を考える場合には、企業会計における情報開示と同様に、責任解除の手続きは存在しないものと考えられる。