構造化理論

 イギリスの社会学者Giddens, A. (ギデンズ)(1938〜)が提唱する理論である。ここでいう構造とは、社会システムを再生産するために個人や組織が依拠する規則や資源のことであり、それは個人や組織が依拠するものであると同時に、個人や組織の行為(社会過程)によって構築されるものでもあり、双方が互いに相手に規定され、相手を規定するという関係となっている。構造化理論は、その再帰的関係のなかで個人や組織などの主体と構造との関係を捉えようとする。史的唯物論を展開したMarx, K. (マルクス)は、社会の経済的土台が下部構造をなしており、その上に上部構造として政治・法律・宗教・道徳・芸術などの意識形態(イデオロギー)と、それに対応する制度・組織などが形成されると論じた。つまり、下部構造が上部構造を規定するという定式であるが、一方でこの上部構造の反作用があることも指摘していた。下部構造が一方的に上部構造を規定するのではなく、下部構造と上部構造との相互作用が歴史を動かしていくというのがマルクスの見方であった。ギデンズはこの相互作用を連続的、反復的なものとしてその状態を分析の対象とした。これが「構造(structure)」ではなく「構造化(structuration)」という言葉の意図である。つまり、構造は社会過程を規定する一方で、その社会過程によって構築されるという二重性、再帰性をもっており、その連続的関係性それ自体で構造やアクターを論じようとするのである。
(吉田忠彦)