公益信託

 委託者が学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他一定の公益目的のため、信託契約の締結または遺言により、主務官庁の許可を受けた受託者(おもに信託銀行)に対してその有する財産を移転し、受託者が、信託契約または遺言により定められた公益目的を達成するため、信託財産に属する財産の管理または処分およびその他の信託の目的である公益目的を実現する制度である。また、公益信託は、公益法人と同様の機能を有しているが、委託者から拠出された財産(信託財産)が、主務官庁の指導監督下に置かれた受託者に名義上帰属し、一定の公益目的のため受託者の固有財産とは別に管理、運用されることから、委託者(出捐者)との信頼関係の構築にも寄与し、公益法人として永続的または長期間に及ぶ公益活動を実施するための財産規模でなくとも、信託期間を短く設定し効率的かつ弾力的な公益目的としての運用をすることも可能である。さらに、近年では、信託銀行等が、遺言書作成の相談から遺言書の保管および遺言の執行までの相続に関する手続きを行う「遺言信託」を取り扱っている。そして、遺言信託の活用例である「遺贈による寄附制度」は、信託銀行等が、公益法人と提携して遺贈寄附を希望する人の遺言執行者となり、公益法人の設立や公益信託の設定など、遺贈財産により公益目的の実現が図られている。法務省は、平成28(2016)年6月7日開催の第31回法制審議会信託法部会から現行公益信託法の見直しの検討を開始し、信託法部会第55回会議(平成30[2018]年12月18日開催)において、「公益信託法の見直しに関する要綱案」が決定されている。これにより、新たな公益信託法は、普及推進のための改正の伏線にあることが推認できる。なお、公益信託法の改正の骨子として、①公益信託の信託事務(公益認定法の別表と同様)および信託財産(金銭に限定しない)の拡大、②公益信託の受託者の拡大(経理的基礎および技術的能力を有する者)、③公益信託の認可および監督は民間の有識者から構成される委員会の意見に基づいて特定の行政庁が行う(主務官庁制の廃止)等があげられる。公益信託についての現行税法上の優遇措置としては、公益信託の信託財産につき生じる公社債等の利子等について、所得税法を課さない旨の規定がある(所得税法11Ⅱ、Ⅲ)。その他、公益信託のうち一定の要件を満たす場合には、特定公益信託または認定特定公益信託に区分して、各々異なる税法上の優遇措置の適用がある。たとえば、特定公益信託に係る税法上の優遇措置として、法人が委託者の場合、特定公益信託の信託財産とするために支出した金銭は、一般の寄附金の額とみなして損金算入限度額の範囲内で損金の額に算入され(法人税法37⑥前段)、他方、受益者である個人は、学資の支給を行うことを目的とする特定公益信託から交付される金品その他一定のものについて、贈与税および所得税が非課税(相続税法21の3Ⅰ④、所得税法9Ⅰ⑬ニ、⑮)となる。
(苅米 裕)