公益事業

 従来、郵便や馬車、あるいは風車や薪といった通信・移動・動力の手段が18世紀後半以降の産業技術の革新に伴い電気、電信電話、鉄道、ガスといった商品やサービスに生まれ変わったことを背景として発展した。これらの商品・サービスは人々にとって利便性が高いものであり、時代の変容とともに必需性を帯びたものに変化していった。これに伴い、これらを多くの人に効率的・効果的に供給するため、一種の大きな仕組み(ネットワーク)の構築とネットワークへのアクセス手段の確保が望まれた。一方、これらの事業は産業特性上、自然独占が生じやすい分野であることから、1つの集合体による独占的な経営が有効であると捉えられてきた。このような経緯のもとで公益事業は誕生し、1920年代までにはほぼすべての分野でサービスの供給体制や供給システムが固まった。しかし、生産設備の過剰や独占力の行使等が懸念されたことから、後に公営化、あるいは規制制度の整備が各分野ですすめられていった。そして、こうした制度設計の過程において今日の公益事業に対する範囲や概念も形成されるに至った。 公益事業学会規約第6条では公益事業をつぎのように定義している。「公益事業とは、われわれの生活に必要不可欠な用役を提供する一連の事業のことであって、それには電気、ガス、水道、鉄道、軌道、自動車道、バス、定期船、定期航空、郵便、電信電話、放送等の諸事業が包括される。」。この用語はかつて公益事業論の泰斗であるGlaeser, M.G. (グレーザー)が「文明社会にとって共通に必需であるサービス(財)を供給し、その経済活動が人々の公益(public interest)に高度に従属する事業が公益事業である。」と主張したことにならったもので、人々の日常生活に必要不可欠な財や用役を需要に応じて随時提供し、人々がその供給に関して大きな便益を受けざるをえない事業といい換えることができる。現在、公益事業は大きな変動期を経て、変容しつつある。従来、自明のものと考えられた事業の独占性が、技術革新や規制緩和の進展によって揺らぎ、オープンアクセスや事業の融合化・多様化とも相まって、サービスの供給体制も大きく変化している。これまで公益事業は公益企業(公益事業会社、公益会社と呼ばれることもある。)、あるいは公企業といわれる企業体により商品・サービスが提供されてきたが、公益事業をめぐる経営環境の変化や制度改革により、さまざまな組織がサービス供給に関与している。
(小熊 仁)