権限移譲

 まず「権限」とは、①公法上は、国や地方公共団体が法令の規定に基づき与えられた職権や、職権を行使しうる範囲を意味し、②私法上は、代理人や法人の機関が契約や法令の規定に基づき与えられた権能や、権能を行使しうる範囲を意味する。その活用例として「権限移譲」があるが、代表的なものとして地方分権改革における「国から地方への権限移譲」があげられる。平成5(1993)年6月、衆参両院の超党派による「地方分権の推進に関する決議」が、第1次地方分権改革の始まりといわれる。平成6(1994)年12月に地方分権推進大綱の閣議決定、平成7(1995)年5月に地方分権推進法(平成7年法律第96号)が5年間の時限立法として制定され、同年7月には地方分権推進委員会が設置された。そして、平成11(1999)年7月、地方分権一括法(地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律、平成11年法律第87号)が成立し第1次地方分権改革が実現した。これにより国と地方の関係が上下・主従の関係から対等・協力の関係に変わり、①機関委任事務制度の廃止、②国の関与に係る基本ルールの確立、それを担保するための③国地方係争処理委員会が創設されている。その後、①国庫補助負担金の廃止・削減、②地方交付税の見直し、③国から自治体への税源移譲の三位一体改革がすすめられた。平成18(2006)年12月、地方分権改革推進法(平成18年法律第111号)が制定され、平成19(2007)年4月に創設された地方分権改革推進委員会による改革は、第2次地方分権改革と呼ばれ、①地方に対する規制緩和(国による義務づけ・枠づけの見直し)、②国から地方への権限移譲、③都道府県から市町村への権限移譲などがなされている。以上の「国から地方へ」の権限移譲を含む分権改革は、「垂直的分権」と呼ばれている。一方、国や自治体などの権限を民間に移譲する「官から民へ」の分権改革があり「水平的分権」と呼ばれている。イギリス発祥の凡例であり、市場(競争)原理や民間の経営手法を導入し行政の効率性を高めることを目的とする。具体例としては、規制緩和や平成11年のPFI(Private Finance Initiative)法(民間資金等の活用による公共施設等の整備の促進に関する法律、平成11年法律第117号)の施行、平成15(2003)年の指定管理者制度の導入などがあげられる。しかし、海外では、経済性や効率性等を偏重するあまり、貧富や人種の違いにより公的サービスの質に差が生じる弊害を生み出すこともあった。この問題を克服する手法として注目されたのが第3の道ともいわれるPPP(Public Private Partnership)、官民連携である。これには、市民が社会的諸力を身に付け、シティズン・エンパワーメントとして政府に認めさせていったという社会的背景がある。日本では、平成7(1995)年の阪神・淡路大震災の折、多くのボランティアが活躍した結果、平成10(1998)年12月、特活法が施行された。後年、この年は「ボランティア元年」と呼ばれている。現在は企業による社会貢献活動も盛んになり、行政だけでなく多様な主体の協働により地域社会が支えられている。
(黒木誉之)