減価償却

 複数の会計期間にわたって使用される資産(固定資産)については、その価値の減少を直接に把握できない、あるいは直接に把握することが合理的ではないことが通常である。そこで固定資産が提供するサービスは、時の経過あるいは利用度合を通じて消費されていくとの仮定を設けて、その固定資産に投下された正味の貨幣額を、その利用期間(耐用年数)にわたって各会計期間に費用として規則的に配分していく手続きを減価償却と呼ぶ。投下された正味の貨幣額とは、その固定資産を取得・利用できる状態になるまでに直接要した支出額(取得原価)から、その処分によりえられる収入見込額(残存価額)を控除した額を指す。取得原価は、購入の場合にはその資産の購入対価に付随費用を加えた額である。付随費用には、引取運賃等のほか、機械装置等の場合には据付費や試運転費等も含まれる。減価償却により各会計期間に費用として配分される金額は、減価償却費と呼ばれる。耐用年数と残存価額の見積りに際しては、時の経過や利用度合による資産自体の摩耗損耗である物質的減価と、物質的にはまだ利用可能であるものの外的要因により資産が陳腐化・不適応となる機能的減価が考慮される。減価償却の方法としては、時の経過を配分規準とする定額法や定率法等、利用度合を配分規準とする生産高比例法等がある。定額法は、要償却額(取得原価-残存価額)のうち時の経過に比例した金額分だけその会計期間の減価償却費とする方法であり、定率法は、その固定資産の期首の帳簿価額(取得原価-減価償却累計額)に一定率を乗じた額をその会計期間の減価償却費とする方法である。生産高比例法は、たとえば総利用可能量に対する各会計期間の実際利用量の割合を要償却額に乗じて求めた金額のように、固定資産の利用度合に応じた金額を、その会計期間の減価償却費とする方法である。
 非営利活動に利用する固定資産に係る減価償却は、その資産の利用にかかわって対価を収受しないかぎり、適正な期間損益計算目的で実施されるものではない。対価のないサービス提供のために利用した固定資産の減価償却費は、それに対応する収益がないためである。また減価償却の自己金融効果は、利益(剰余)の分配を行わない非営利法人には存在しない。その自己金融効果とは、減価償却を上回る十分な収益があったうえで利益(剰余)を配当等として全額組織外に流出させたとしても、収益により獲得した流動資金のうち減価償却費相当額は内部留保されることを指すため、利益獲得を主目的とせず、配当等による組織外流出が生じない非営利法人の場合、減価償却費の有無にかかわらず、内部留保される流動資金に変化は生じないからである。そのため、非営利活動に係る減価償却は、固定資産に投下された正味の貨幣額(支出額)を耐用年数にわたってそれぞれの期間の収益または収入に負担させていくための過程と理解することが合理的である。
(齋藤真哉)