契約の失敗

 非営利組織が提供するサービスや財は、公共性が高く、企業が提供する商品やサービスよりも消費者がその質や成果を評価しにくいものが多い。例として、患者が病院で提供される医療サービスが適切であるか否かについて、評価することが難しい理由は、医療サービスを提供する病院や医療従事者と患者が同等の医療情報や技能を有していないからである。このように、サービスや財の生産者と消費者が有する情報に乖離がある状況を「情報の非対称性(information asymmetry)」という。情報の非対称性が生産者と消費者の間に存在するとき、消費者は生産者に対して十分な信頼をすることができず、その生産者からサービスや財を購入しない、つまり、生産者と契約をしないことによって、契約した場合に生じうるリスク回避を行う。その結果、市場では、需要と供給の最適配分を下回る不経済が生じる。これを「契約の失敗(contractfailure)」と呼び、契約の失敗理論として説明される。契約の失敗は、需要側の供給側に対する信頼の欠如に起因するため、契約の失敗理論では、利潤の最大化を追求する営利組織よりも、利潤の非分配制約を課されながら、非営利の活動に取り組む非営利組織の方が需要者からの信頼をえやすく、市場競争では優位になると考えられる。
(中嶋貴子)