経営戦略

 非営利組織も営利企業と同様に、さまざまな経営戦略を展開している。経営戦略は、組織の事業領域に照準を合わせた継続的な意思決定の流れであり、事業領域と組織との相互作用の結果生まれるものである。従って、基本的な事業領域とオペレーションを幅広く定義した使命も、この経営戦略の形成に影響を及ぼす。このように形成される経営戦略は、使命とともに組織目標を明確化し、組織が対処すべき環境状況を限定する。従って経営戦略は、組織が他組織・市場環境との間で行う交換のタイプ、すなわち組織が他組織・市場環境に対して必要とする情報および資源のタイプを特定する機能を果たす。もっぱら営利企業に関して展開されてきた経営戦略の概念を非営利組織に適用することは、従来不適切と考えられてきた。しかしDrucker, P. F.( ドラッカー)の指摘にもあるように、非営利組織にとってもマネジメントや、その重要な構成要素である経営戦略は必要不可欠なものである。
 経営戦略の内容は、組織が追求する活動の種類、具体的には、提供されるサービスやプログラムの組み合わせ、提供方法、必要な資源の種類等を指している。経営戦略にはさまざまな類型が存在する。競争戦略と協調戦略は対極をなす2つの重要な戦略類型である。競争戦略は、当該組織が少数の支持者・組織に依存せずに済むように、他組織への依存性およびタスクの不確実性を管理しようとする戦略である。なお、「タスクの不確実性とは、タスク遂行に必要な情報量と組織がすでに保有している情報量の差である」。たとえば、ある非営利組織にとっては、信頼できる一定数の資金提供者とサービスの受益者をつねに確保することが競争戦略である。サービスの受益者を確保する問題は、資金提供者を確保する問題ほど重視されないが、同程度に重要である。この競争戦略の下位戦略に革新戦略と効率戦略がある。革新戦略は、新製品や新サービスを提供することによって直接的な競争を回避しようとする戦略である。新製品や新サービスの提供は、競争している他組織が追随してくるまでの期間、当該組織の独占を可能にする。効率戦略は、効率性の確保に力点を置き、事業の組み換え等を注意深く行い、組織の存続を確保しようとする戦略である。協調戦略は、従来ほとんど取り上げられてこなかったが、次第に重要な戦略として分析されるようになった。今日、多くの非営利組織は、①同じ事業領域内で活動している他組織とのサービスの提供、ロビー活動、資金の調達などに関する協力活動、②当該組織に資金や情報を提供する他組織、特に公組織との協力活動、③他組織からの人材受け入れなどに重点を置くなどの協調戦略を採用している。協調戦略が採用される場合、一方の組織は他方の組織に対して影響力を行使しようとする。従って、協調戦略が成功するためには、組織間の取り決めが双方の組織に同等の義務を課すとともに、双方の組織のタスクの不確実性を削減するものでなければならない。
(小島廣光)