協働

 協力して働くことであるが、近年、「協働」という用語が特に自治行政など公的領域において散見される。日本の協働論の歴史を振り返ると、多くの研究者が参照している荒木昭次郎の『参加と協働―新しい市民=行政関係の創造―』がある。荒木は、ネーバーフッド・アソシエーション研究のため、昭和59〜60(1984〜85)年にかけてアメリカのヴァージニア大学に留学した。その研究過程で出会ったのが、日本の協働論の源泉といわれる「コプロダクション」(co-production)である。この用語は、インディアナ大学(当時)の政治学者Ostrom, V(. オストロム)教授が「地域住民と自治体職員とが協働して自治体政府の役割を果たしてゆくこと」の意味を一語で表現するために造語したものである。荒木は日本ではじめてコプロダクションを「協働」と訳しつぎのように定義している(荒木、1990)。「地域住民と自治体職員とが、心を合わせ、力を合わせ、助け合って、地域住民の福祉の向上に有用であると自治体政府が住民の意思に基づいて判断した公共的性質をもつ財やサービスを生産し、供給してゆく活動体系である。」。その後、『協働型自治行政の理念と実際』(荒木、2012)においては、つぎのように定義している。「異なる複数の主体が互いに共有可能な目標を設定し、その目標を達成していくために各主体が対等な立場にたって自主・自律的に相互交流しあい、単一主体で取り組むよりも効率的に、そして相乗効果的に目標を達成していくことができる手段」、「異なる能力、技法、規模、ノウハウなどをもつ複数の主体が共有目標を達成していくために、対等な立場で異質性を発揮しつつ相互に連携しあい、より大きな成果を生み出す協力・連携活動システムである」、そして、「協働」により期待される効果について、つぎのように述べている。「協働型自治行政は、一面においてはデモクラシーの確保を、他面においては自治行政の効率性を担保してくれる手法である」。
 これらを踏まえ、「協働」のもつ特別な意義は以下である。第1に、デモクラシーの視点である。地域住民からなる多様な主体が、自治行政に参画し協力・連携を重ねていくことは住民自治の拡充を意味し、デモクラシーの確保に繋がっていく。第2に、効果性、効率性の視点である。共通目標達成のために、公的サービスの受け手であった地域住民自らが、能力、資源、規模など互いに異なる点を尊重し、特質や個性に応じた役割と責任を担うことで、社会的効用(価値)を効果的、効率的に生産、分配していくことが可能となる。一方、特にボランティア元年といわれる阪神・淡路大震災の平成7(1995)年以降、社会は、政策決定や公的サービス生産供給の主体が行政のみの一元的なガバメント(統治社会)から、多元的な主体によるガバナンス(協治社会)へと変容してきた。このガバナンスは「協働」を前提に、その主体として自治的市民を想定している。しかし、いまだ市民には温度差があるのが現状である。そこで、これからの地域ガバナンスは、コプロダクションとしての「協働」の意義に立ち返り、自治的市民の育成も視野に入れた地域社会のデザインを構築していくことが求められる。
(黒木誉之)