寄附

 NPO法人や公益社団・財団法人、ボランティア団体などの非営利組織が継続的に事業を行い、組織運営を行っていくうえで、重要な活動原資の1つである。たとえば、NPO法人の財源にはおもに会費、寄附金、助成金・補助金、事業収入、委託金や融資等があるが、特定非営利活動に関する収益の財源別収益構造の内訳をみると、認定・特例認定法人では「寄附金」(15.9%)が「事業収益」(67.9%)に次ぐ重要な財源となっている(内閣府「平成29年度 特定非営利活動法人に関する実態調査」平成30[2018]年3月)。対価を利用者からえることが難しかったり、制度に基づかない事業は、事業からの収入のみで継続的に事業を行うことは難しい。しかし、非営利組織の設立目的やミッションをもとに考えると、事業性が低くても社会的ニーズが高い(公共性や社会性が高い)事業は継続的に行うことが期待される。そうした際に重要な財源が、助成金や寄附金などの支援性財源である。さらに、寄附金は助成金に比べて団体の寄附募集の目的と使途に合わせて使うことができるため、助成金に比べて自由度の高い財源という特徴がある。そのため、寄附を募ることで対価性の低い(事業性の低い)事業の財源としたり、新たな事業の開発や中長期的な取り組みに対する財源を、寄附を募ることで確保できるという利点がある。このように重要な活動原資となり、寄附によって活動と運営が支えられているという点で、寄附を集める非営利組織自体も受益者の1つといえる。また、集められた寄附を充当して行われる事業・活動の対象者も寄附の受益者である。寄附募集の目的に即した第1の受益者はこの事業・活動の対象者となる受益者と考えられる。さらに、寄附する人や団体・企業の寄附動機・意思の観点から、寄附者自身も受益者の1つとも考えられる。なぜならば、寄附は、寄附者が自らの意思に基づき金銭・財産を対象機関・施設・団体等へ無償で供与することで行われるが、寄附者が喜びや満足感、あるいは地縁をはじめ各コミュニティへの所属意識や仲間意識、自己実現や自己肯定感、税制優遇やふるさと納税の返礼品等のメリットやインセンティブ等を、寄附をすることによってえている面もあるからである。寄附者の動機は、『寄付白書』でも紹介されているが、必ずしもすべて「純粋な利他性」(相手の満足感を高めるために・相手のために寄附する)わけではなく、本人の寄附行為そのものからえられる自分自身の満足感を高めることを重視して寄附することもあったり、もちつもたれつの関係のなかでの「返報性」や「互恵性」、周りに合わせる「同調性」によるものもある。近い関係の対象に対しては利他的だが、疎遠な対象には利他的ではないという指摘もある。内閣府が行った「2019年度 市民の社会貢献に関する実態調査」(令和2[2020]年6月)によると、平成30年の1年間に寄附をしたことがある人は41.3%、寄附の動機として、「社会の役に立ちたいと思ったから」がもっとも多く(59.8%)、「町内会・自治会の活動の一環として」(36.2%)、「自分や家族が関係している活動への支援」(11.7%)、「所得税が軽減される制度があるから」(10.8%)と続く。しかし、寄附金控除制度利用の有無についてみると「利用した」と回答した人は16.7%にとどまり、利用しなかった人の理由では「制度について知らなかったから」(40.9%)がもっとも多い。寄附の妨げになる要因では、「経済的な余裕がないこと」(50%)に次いで「寄附先の団体・NPO法人等に対する不信感があり、信頼度に欠けること」(24.1%)、「寄附をしても実際に役に立っていると思えないこと」(22.6%)があげられている。また、寄附時に必要と考える情報として、「寄附先の活動内容」(76.9%)、「寄附により期待される効果」(53.1%)が上位にあげられている。寄附をした分野として「災害救助支援」(44.7%)と「保健・医療・福祉」(30.3%)が多く、まちづくりや子ども・青少年育成、国際協力、環境などの分野との差が大きい。また、寄附先の回答は、共同募金会(37.2%)、日本赤十字社(29.5%)、町内会・自治会等(28.9%)が上位で、公益社団・財団法人は20.0%、NPO法人は12.4%にとどまり、ふるさと納税等を通して都道府県・市町村は12.8%、その他の非営利法人や社会福祉法人はそれぞれ8.7%、7.8%となっている。特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会が発行する『寄付白書2017』では、分野別にみた寄附のきっかけの調査項目があり、「自治会や町内会が集めに来たから(回覧を含む)」という回答が共同募金会や日本赤十字社、自治会・町内会等やまちづくり分野の活動で多くあげられていることや、子ども・青少年分野や教育・研究分野では「毎年のことだから」、それ以外のテーマ型の活動への寄附は「関心があったから」が最上位の回答となっている。なお、同協会によると、『寄付白書』を創刊した平成22(2010)年当時は、日本の寄附市場は個人寄附5,000億円、法人寄附5,000億円の合計1兆円規模と推計されていたが、この10年間で、寄附税制の改正をはじめとした制度変更、クラウド・ファンディングなどの新たな寄附手法の登場と定着化、ファンドレイジング支援事業者やファンドレイザーなどの専門家の登場と活躍、東日本大震災や各地での豪雨被害などの自然災害を契機とした寄附機会の増加など、多くの変化が生じ、寄附市場を巡る状況は大きく変わってきている。平成23(2011)年の東日本大震災では、個人寄附のみで1兆円の寄附が行われたと推計され、以降、市場規模は個人/法人(7,000億円/7,000億円)合わせて1兆4,000億円へと拡大し維持されており、寄附者率でみても平成22年では3割であったものが、震災後は4割で推移しており、個人寄附が増えている傾向がうかがえる(約7割の人が寄附を行ったことから平成23年は「寄附元年」ともいわれる。)。アメリカやイギリス等と比較して個人寄附の割合が低く、寄附総額も低水準だが、「社会に貢献したい」と考える日本人は7割に達し、「遺贈寄附」など相続財産の一部を寄附することに関心がある人も40歳以上で2割を超える調査結果も報告されている。寄附文化の醸成という観点からは、上記のほかにも、ふるさと納税の制度拡充や12月を「寄付月間」とする取り組みなども、政府や行政、民間によってなされている。
(河合将生)