企業家精神

 アントレプレナーシップ(entrepreneurship)の日本語訳であり、新たな事業を創造し、リスクに挑戦する企業家の姿勢および活動を意味する。ベンチャー企業やスタートアップ企業の創業者を指し、起業家精神と表記されることもある。企業家精神は、経済学者のShumpeter, J.A.( シュンペーター)により、市場におけるイノベーションの担い手として企業家の重要性が指摘され、新結合と創造的破壊の原動力として概念が提起された。さらに、経営学者のDrucker, P. F.( ドラッカー)が、企業家精神は経済の領域に限定されるものではなく、人間の実存にかかわる活動を除くあらゆる人間活動に適用されると論じたことで、経済学、経営学、社会学、心理学など多様な領域での研究に発展した。初期の研究では、心理学をおもな理論基盤とする特性理論によるアプローチが中心であった。特性理論では、新規事業を生み出した企業家に共通して観察される性格や志向などの特性を、達成動機、統制の所在、リスク志向などから分析を行う。しかし、このアプローチでは、企業家精神の概念のあいまいさなどにより、定量的に企業家特有の資質の有意性を導くことが困難との指摘も存在する。そのため、個人の内面構造よりも観察可能な行動体系を対象とした行動理論によるアプローチが行われるようになり、研究範囲もベンチャー企業やスタートアップ企業の創造プロセスだけではなく、大企業まで拡張されている。そこでは、トップマネジメントだけでなく、ミドル・ロワーマネジメントにおいても企業家精神の重要性が認識され、企業内企業家、変革エージェントとして、組織のなかでイノベーションや変革の行為主体として企業家的に振る舞う役割が期待されている。イノベーションや変革は、企業だけでなく非営利分野においても必要性が高まっており、社会課題の解決を目的としたソーシャルビジネスの担い手となる社会的企業家を対象とした研究も増えている。また、前例のないビジネス課題や複雑化する社会課題に対して、新たな価値を創造し、既存社会・組織に変革をもたらす人材の育成も命題であり、アントレプレナーシップ教育もすすめられている。
(伊藤 葵)