ガバナンス

 組織が総合的かつ有効に指揮され統制される権限と職能のシステムを指す。株式会社の場合、現代の所有と経営の分離現象において、エージェンシー理論がプリンシパルの決定統制(決定の承認と実行の監視)をする手段として「ガバナンス用具」の用語を使い、このガバナンス用具の形態を取締役会(ガバナンス・ボード)としたのである。そこで、ガバナンスシステムはもっぱら所有権者の代理機関である取締役会が経営者の機会主義的行動を監視し経営を統制するという関係管理に重心をおき、その中身は経営者の機会主義的行動を防止する人事制度や報酬制度などを用いる決定統制にある。従って、このようなガバナンス概念を直ちに非営利組織に適用することは困難であり問題がある。非営利組織はつぎのように異質であるからである。①経営者が明確に責任をもつべき株主のような所有権者がいない。また、理事会は設立規定や定款である種の代表となる資格要件を定めているが、事実上自己継続型(新しい理事は現在の理事から承認される)である。②多種のステークホルダーがいて、管理者とステークホルダーの目的との間には、営利組織のような目的同一性が存在しない。また、公益性の基準がそれぞれで目的行動が多様で明瞭でない。③決定統制する際の評価基準と評価方法が一定ではない。④理事は業績報酬を受けないか、ボランティアが多い。⑤理事長とCEOの2分制が多く、理事会は十分に情報共有できない。こうして、非営利組織の統治機関である理事会は営利会社の取締役会よりもパワーに欠ける。非営利組織のガバナンスは誰も所有権者でない多様なステークホルダーたちが構成する理事会が司るところにその特殊性があり、その弱点がある。そこで、非営利組織には特異なガバナンスシステムが必要であるが、組織の種類によってガバナンスがまた異なる。1つの「あるべき」ガバナンスの仕組みは存在しない。たとえば、理事会とCEOの兼任制と分離制、大規模組織と中小規模組織、企業家的組織と相互的組織、専門職能組織と一般慈善組織のそれぞれのガバナンス問題の所在とガバナンスのあり方が異なる。ただ、非営利組織においては、所有権者不在の多数ステークホルダーが民主的合意形成で公益を目的に協同するガバナンスの構築が基礎である。もともと理事会とCEOの関係は本質的に相互補完のパラドックスの関係にある。理事会は多くの重要な政策決定に関して最終権限がある。しかし、ほとんどの情報について、政策の具体的表現や政策の実施についてCEOに依存している。しかし、このCEOは理事会に採用され解雇され、重要な外部関係には理事会を必要とする。そこで、非営利組織におけるガバナンス問題は理事会(特に理事長)と経営者(特にCEO)との「協同関係の構築」にその中心がある。営利組織のようにエージェンシー問題の解決として決定統制を強化する「監視」ガバナンスではなく、非営利組織には公共に奉仕する同志としてのスチュワードシップ関係の維持のために、決定管理も共有する「協同」ガバナンスを求めるべきである。
(堀田和宏)