会計責任

 今では説明責任ともいわれる会計責任(accountability)の本来の意味について、歴史的にみれば、「会計の歴史は概して文明の歴史である」(片岡訳『ウルフ会計史』)といわれるとおり、会計責任の概念の歴史は古代文明までさかのぼる。ハンムラビ法典(紀元前1700年代)にこの概念はすでにあり、同法典はそれ以前の古代文明の諸法典との関連が指摘されている。近代ヨーロッパ諸国の法律にまで強い影響を与えたローマ法大全に含まれる『法学提要』(533年)には、後見人の会計責任に関する規定がある。これは後見訴訟における会計責任であったが、近代ヨーロッパ諸国の民法では、一般的な後見終了時における後見人の会計責任を定める(たとえば1804年フランス民法469)。フランス民法の影響が強い日本の旧民法にも同様の規定(4編937)があり、現在の民法870「後見人が任務を終了したときは、後見人またはその相続人は、二箇月以内にその管理の計算(以下「後見の計算」という。)をしなければならない。(以下省略)」に至る。会計責任を負う者として、民法ではこのほかに受任者(民法645)、業務執行組合員(同法671)、遺言執行者(同法1012②)などがあり、破産法(平成16年法律第75号)では破産管財人(破産法88①)がある。これらも元はフランスおよびドイツの民法等にある。会計責任を負うこれらの者は、いずれも他人の財産に(直接的または間接的に)関係する事務を引き受けた者である。この典型である受任者の会計責任について民法は、「受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過および結果を報告しなければなららない。」(民法645)と定める。ここには、受任者が委任者の請求で随時行ういわば状況報告と、委任終了時に必ず行ういわば顚末報告とがある。このうち会計責任に直結する会計は、後者の顚末報告(独Rechenschaft)にあり、フランスではこれを勘定返報(rendre compte)という。
 勘定返報について、フランス民事訴訟法(1806年)に詳細な定めがあり、明治政府の翻訳局の訳述をもとに(用語を現代語化して)その要点を示せば、①会計責任を負う者による計算書の提出、②計算書には実際の受取高と支払高および末尾に差引残高を記載、③計算書の差引残高の(勘定返報を提訴した者への)支払い、となる。訴訟では裁判所が証人になるので必要ないようだが、一般(訴訟外)の勘定返報では残高支払(清算)の後に、責任解除の証として勘定受領証の授受が行われる。会計責任は責任解除をもって終わる。会計責任に直結する会計は、計算書を作成するために、会計帳簿の作成と、会計責任の開始時点の状況次第で(たとえば財産管理の受任)、開始財産目録の確認または作成が必要である。会計帳簿と財産目録は会計の原点であり、勘定返報(顚末報告)は会計の原型である。この会計の原点と原型が、公益法人認定法令が定める公益法人(公益社団・財団法人)の会計にみられる。公益法人は、会計帳簿の作成のほかに、財産目録の備置きが必要であり(公益認定法21②)、毎決算で作成・提出する計算書類として、貸借対照表・損益計算書のほかに、財産目録と(所定の法人につき)キャッシュ・フロー計算書がある(同法21②、22、同法施行規則28①)。キャッシュ・フロー計算書は収支計算書であるから、公益法人の会計報告には勘定返報(顚末報告)が生きている。
(安藤英義)