会計主体

 会計上の判断を行う主体のことである。実際に会計処理の判断を行う人物が誰かではなく、誰の立場からの判断として会計処理が行われるべきかという理論問題である。この理論問題は会計主体論として展開されてきた。企業会計の分野では、資本主理論と企業主体理論が対照的な概念である。資本主理論では、企業の資産は出資者である資本主の財産、負債は資本主の債務となるから、資本は資本主の純資産(純財産)となる。これに対して、企業主体理論では、企業はその出資者から独立した存在であるから、企業それ自体の立場から会計的判断を行うとする理論である。しかし、企業それ自体の立場という考えは1つに収斂しない。企業の資産に対する持分を債権者持分と資本主持分として把握したうえで、資本主から独立した判断を求める見解がある。つまり企業ないし経営者の立場から判断するということで、実質的には代理人理論となる。さらに、企業は債権者、株主以外にもすべての利害関係者から構成されるとする企業体理論という一種の社会的公器としての企業という見解がある。これらに対して、逆に、企業は一切の利害関係者から独立した存在であるとする見解もある。いずれの見解を採用するかにより、利益の概念も、純資産の概念も変わってくる。非営利組織(法人)の特徴は、営利を追求しないこと、その所有者(出資者である資本主)がいないこと、所有者がいないので例外的に収益事業を行うにしても利益が分配されないことに特色がある。非営利組織(法人)の所有者がいないとなると、企業会計における会計主体論のうち、資本主理論と代理人理論が非営利会計に適用されないことになる。非営利会計における会計主体としては、非営利組織(法人)がすべての利害関係者からなる社会的公器とみなした場合の組織それ自体か、すべての利害関係者から独立した存在とみなした場合の組織それ自体となる。いずれの見解に立つとしても、会計制度上、現実に債権者が存在することを踏まえ、その持分を会計的に負債として示すと、自動的に純資産が計算される。この純資産の変動をどのように会計処理すべきかについては見解が分かれる。
(柴 健次)