エコマネー(地域通貨)

 国内外で使用される法定通貨と異なり、コミュニティ内で流通可能な地域通貨である。エコマネーは1990年後半の通貨危機を受けて2000年の前半まで世界各地で取り組まれた。その後、衰退と停滞がみられるようになったが、エコマネーは、資本主義経済の宿命といえる通貨危機に伴う市場経済の破綻リスクをカバーするツールとみなされている。エコマネーは、社会で人々を結びつけている貨幣を労働に置き換えて、貨幣経済につきものの利子の介在なしにコミュニティのなかに人々の関係性をつくりだす。具体的には、困りごとや頼みたいことのある人と手伝うことを申し出る人(同一人が手伝う側になったり、依頼する側になったりするケースがあり、一般的に会員組織であることが多い)、そしてマッチングを担う事務局によって構成される。信頼のネットワークによるインフォーマルな関係が社会関係資本を形成し、持続的なライフスタイルとなることに象徴されるように、これまでの経済システムでは充足できないニーズに対応するものといえる。
 一方、企業が発行する各種のポイント制のサービスが拡大している現在、エコマネーの使い勝手や差別化を強調することは難しくなっている。しかし雇用関係ではない支え合いの有償ボランティアのようなエコマネーの仕組みは、安心感を備えもつ近隣コミュニティと通底するシステムとはいえ、市場サービスでは代替しがたいものとしての重要性をもつものといえる。近年では、平成23(2011)年の東日本大震災後、被災地域の事業活動や障害者就労支援に事例がみられる。日本で最初にエコマネーという用語を提唱した加藤敏春は、エコマネーが「信頼貨幣」としてボランティア経済で流通するだけではなく、エココミュニティやエコライフを支えるもので利用価値の媒介手段として定着する可能性をもつと強調している。エコマネーは、資本主義と市場経済の限界を受け止め、新しい社会経済社会へのロマンを提供しているといえる。
(杉岡直人)