ウォームグロー

 人が寄附することで「心温まる気持ち」になることを指す。Andreoni, J. (1989)がこの情動的な感情をもって寄附をする状況のあることを提起し、それを説明するのにウオームグロー・ギビング(warm glow giving)と称した。通常、人はみんなのためにと純粋の利他心で寄附をするようにみえるが、すべての寄附が利他心でなされているとすると、国が公益のニーズを満たしていれば、それが寄附を締め出すはずである。ところが事実はそうではない。人は「純粋の利他」ではなく、「純粋でない利他」で寄附をするからである。寄附者の効用は寄附が公益に供された事実―誰かの満足の増大―と同時に、その満足に貢献してきたという寄附行為自体からえられる満足があるから寄附をするのである。人間は合理的存在であり、自己利益の最大化を願う存在であるとする一般的な経済学の仮説からは、寄附行為は完全な交換取引ではないがソフトな交換取引であるとみなす。そこで、人が寄附という取引をするには何らかの動機があり、その動機を行動に駆り立てるインセンティブがなければならない。寄附者は利他主義的な行為から何もえるものがないように映るが、実は、人は寄附によって受けとる有形か無形の何らかの私的便益があるから寄附をすると考える。そこで、いわゆる政府の失敗で自分たちのニーズを満たす非営利組織は別として、また、完全に利己的な動機で有形の便益をえる場合は別として、つぎのような寄附の私的便益があげられる。①有形の経済的・社会的な便益:イ)減税、組織の支配、ロ)会員資格、ソーシャルネットワークへの参加、②無形の心理的な便益:イ)外にみえる社会的便益:顕彰、評判、尊敬、名誉、社会的地位、ロ)外にみえない寄附行為自体に感じる内心にある自分だけが感じる「心理的満足」:暖かな気持ち、喜び、贖罪の気持ち。 ウォームグローはこの「心理的満足」を指すが、ウォームグローがその寄附行為のたんなる副作用であり、それがなければ寄附をしないわけではない場合には、その寄付行為は「利他主義」といってよい。
(堀田和宏)